小宰相

小宰相（こざいしょう）

小宰相は、平安時代末期に生きた女性で、平通盛の妻としてその名を知られています。嘉応元年（1164年）頃に生まれ、寿永3年（1184年）に亡くなりました。父は刑部卿藤原憲方、母は按察使藤原顕隆の娘という家柄の良い生まれでした。

宮中一の美女と平通盛との恋

小宰相は、上西門院（鳥羽天皇の皇女）の女房として宮中に仕えており、その美貌は宮中一と評判でした。平家物語によると、16歳頃（治承3年、1179年頃）に法勝寺の花見に供奉した際、中宮亮であった平通盛が一目惚れしたとされています。通盛はその後、熱心に和歌や恋文を送りましたが、小宰相は3年間も返事をしませんでした。

ある時、通盛は最後の思いを込めて文を使いに託しましたが、折悪く取次の女房がいませんでした。使いが戻ろうとしたところ、ちょうど里から帰る小宰相の車と出会い、文を車に投げ入れて去りました。小宰相は一旦文を持ち帰りましたが、御所で上西門院の前でその文を取り落としてしまいます。上西門院は、小野小町の例を出しながら、自ら硯を取り寄せて小宰相に返事を書かせました。こうして上西門院の仲立ちによって、小宰相と通盛は結ばれることになりました。

通盛には、他に平宗盛の娘も妻としていましたが、まだ12歳程度の幼い少女でした。その後、治承・寿永の乱が勃発し、通盛は各地を転戦することになります。平家は源義仲に大敗し、寿永2年（1183年）には都落ちを余儀なくされ、小宰相も通盛とともに海上を流浪しました。平家は讃岐国屋島に本営を置き、やがて摂津国福原にまで進出します。

一ノ谷の戦いと悲劇の最期

寿永3年（1184年）正月、源義仲は源頼朝の弟である範頼・義経によって滅ぼされます。同年2月、範頼と義経は大軍を率いて福原に迫りました。戦を前に、通盛は沖合の船団から小宰相を呼び寄せ、「明日の戦で討ち死にするかもしれない。その時はどうする」と尋ねました。小宰相は、自分が身籠っていることを告げると、通盛は大変喜び、生まれてくる子が男の子であることを願いました。

そこへ、平家随一の剛勇として知られる弟の教経がやって来て、通盛をたしなめました。通盛はもっともなことだと思い、小宰相を船へ帰しました。しかし、合戦は平家の大敗に終わり、通盛は佐々木俊綱に討ち取られてしまいます。小宰相は、夫が討たれたことを聞いても、まだ生きて帰ってくるかもしれないと、不安ながらも夫の帰りを待ち続けました。

通盛の従者である滝口時員が小宰相の船にやってきて、通盛が湊川で討死したこと、そしてその最後の奮戦の様子を伝えると、小宰相は返事もできず泣き伏しました。そして、船団が屋島に到着する夜、小宰相は乳母に福原での夫との最後の対面のことを語り、「子を産んで形見として育てたいが、悲しみに耐えられない。夫を追って海の底へ入ろうと思う」と決意を告げました。

乳母は必死に止めましたが、小宰相は「南無西方極楽世界…どうか、別れた夫婦を極楽で会わせてください」と念仏を唱えると、海に身を投げました。梶取りが異変に気付き、海を探しましたが、引き揚げられたときには既に亡くなっていました。乳母は、通盛の鎧を亡骸に着せ、泣きながら海に沈めて葬りました。

その後、乳母は通盛の弟である中納言律師仲快のもとで出家し、通盛と小宰相の菩提を弔いました。人々は、夫を亡くした妻が後を追うという珍しい行動に感心し、「忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫にまみえず」と（史記の故事を引用して）その貞節さを称えました。

その後の語り継がれる悲話

『建礼門院右京大夫集』にも、その美貌が知られていた小宰相が通盛の妻となったことは意外だったと記されています。また、夫の死を追って入水したことは「これまでにない契の深さよ」と京都でも評判になったそうです。さらに、右京大夫の知人が小宰相に思いを寄せていたことも書かれています。

徳島県鳴門市の大毛島にある新羅神社近くには、小宰相の墓と伝えられる墓碑が残っています。

小宰相の悲劇的な生涯は、平家物語の中で一章を割いて語られており、一ノ谷の戦いを象徴する悲話として後世に語り継がれています。

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