建礼門院右京大夫集

建礼門院右京大夫集の概要

『建礼門院右京大夫集』は、鎌倉初期に成立した約360首の歌を収めた私家集である。著者は、平安時代末から鎌倉時代にかけて活躍した藤原伊行女であり、彼女の歌は中宮時代の建礼門院、つまり平徳子に仕えていた際の思い出や感情が色濃く反映されている。この歌集は、贈答歌を含むための色々な人との交流を示す作品でもある。

作者とその背景

藤原伊行女は承安2年（1172年）から右京大夫という女房名で活動しており、初めての仕え先は建礼門院だった。彼女は約6年間仕えた後、後鳥羽上皇やその生母七条院に20年以上仕官するが、過去の思い出が忘れられず、特に「建礼門院右京大夫」としての名は特に重視された。特に、天福元年（1233年）頃に選考歌を藤原定家に提出し、この歌集が形成された経緯がある。彼女が『新勅撰集』に採用された歌はわずか二首だが、後の『玉葉集』には十首が選ばれた。

歌集の内容とテーマ

『建礼門院右京大夫集』の前半は、彼女が承安4年（1174年）に経験した出来事に着目し、中宮である平徳子の喜びや、平家の栄光を称える内容が多い。その中で、彼女は年下の貴公子・平資盛との恋愛に深く関わっており、歌人として有名な藤原隆信とも交流を持った様子が描かれている。

後半は、寿永2年（1183年）7月に平家の一門と共に都を落ちる資盛との別れから始まる。彼女は平家の滅亡に象徴的に連なる資盛の死を背景に、悲しみに満ちた日々の思い出を探訪する。特に、元暦元年（1184年）に資盛に手紙を送り、その後の彼の入水を知ることとなり、嘆き悲しむ様子が良く表現されている。大原での再会では彼の無残な姿に涙し、歌を詠んだ。

作者の遺志と切ない思い

彼女は悲しみを忘れようとして比叡坂本を旅行するが、そんなことでは癒やされない日々が続く。七夕の牽牛織女に由来し、50首もの歌を詠み、資盛の忌日に追善供養を行ったことからも、彼女の想いが伝わる。また、彼女は自分が死んだ後にも記憶されることを願っていた。このように、彼女の哀しみは深く永遠に続いている。

四十歳を過ぎた頃、再び後鳥羽院に仕官することになるが、過去を振り返った詩を詠みながら、今でも忘れられない思いにより一層苦しむ。彼女の志しが詩の最後にあるように、この家集は彼女自身の日々の出来事を記録したメモであり、個人的な日記である。

歴史的な評価

この歌集は単なる私家集ではなく、歌物語や女流日記文学の一部として位置づけられており、彼女の心の痛みや周囲の悲劇を描いた作品として評価されている。彼女は、寿永・元暦の兵乱で逝去した多くの平家の公達と彼女自身の傷を重ね、全体的に時代の不安定さや無常さを訴える内容になっている。特に彼女の歌は、同じような悲しみを持っている多くの人々の心に共鳴し、太平洋戦争中の女性たちにも受け入れられ、広く親しまれることとなった。

現存する本は、九州大学附属図書館の細川文庫蔵本と群書類従本に分かれており、九州大学の本が特に質が高いとされている。正元2年（1260年）以降に書写され、遅くとも室町中期までに流布したことが確認されている。

注釈書

• - 糸賀きみ江校注『建礼門院右京大夫集』（新潮社、新潮日本古典集成）
• - 糸賀きみ江『建礼門院右京大夫集　全訳注』（講談社学術文庫、2009年）
• - 久松潜一・久保田淳校注『建礼門院右京大夫集』（岩波文庫）、『平家公達草紙』併収。
• - 久保田淳『建礼門院右京の大夫集・とはずがたり』（小学館、新編日本古典文学全集）

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