小島美子

小島美子（こじま とみこ）は、1929年3月7日に福島県で生まれた日本の音楽学者であり、国立歴史民俗博物館の名誉教授です。彼女は主に日本音楽史および民俗音楽学を専門とし、歴史的な観点から日本の音楽文化について深く掘り下げた研究で知られています。

経歴

小島美子の学歴はやや異色の道を辿っています。1949年、専門学校としての課程だった日本女子大学国語科に在籍していましたが、その後、東京大学へ進学します。1953年に東京大学文学部国史学科を卒業した後、大学院に1年間籍を置きました。卒業後は中学校の教員となりますが、3年で退職し、改めて音楽の道を志します。1958年、東京藝術大学音楽学部楽理科に入学。1964年に同大学を卒業しました。

大学卒業後、彼女はお茶の水女子大学、早稲田大学、東京藝術大学などで非常勤講師を務め、教育・研究活動を続けました。そして、1985年には国立歴史民俗博物館の教授に就任し、日本音楽史や民俗音楽に関する研究・展示において重要な役割を果たしました。1994年に定年を迎え、同博物館の名誉教授となりました。また、研究者として、日本民俗音楽学会の会長や、江戸東京博物館の研究員なども歴任し、多方面で日本の音楽文化の振興と研究に貢献しました。

私生活においては、政治学者で法政大学教授を務めた小島昭（1929-1987）を夫に持ちました。

研究と著作

小島美子の研究は、日本の音楽を単なる芸術作品としてだけでなく、歴史や社会、人々の生活と結びついた文化現象として捉えることに特徴があります。彼女の著作には、この視点が一貫して現れています。

代表的な著書としては、以下のようなものがあります。

『日本の音楽を考える』（音楽之友社、1976年）
『歌をなくした日本人』（音楽之友社〈音楽選書〉、1981年）
『日本音楽の古層』（春秋社、1982年）
『音楽からみた日本人』（日本放送出版協会〈NHKライブラリー〉、1997年）
『日本童謡音楽史』（第一書房、2004年）

また、共著や編著としては、以下のようなものがあります。

『日本童謡集』（河内紀と共著、音楽之友社、1980年）
『現代の公共政策』（小島昭著、赤木須留喜と共編、勁草書房、1990年）
『日本の音の文化』（藤井知昭と共編、第一書房、1994年）

さらに、『祭・芸能・行事大辞典』（朝倉書店、2009年）では、民俗学や宗教学の著名な研究者たちと共に監修を務め、幅広い分野における知識と見識を示しました。

小泉文夫との交流

東京藝術大学楽理科で学んでいた時期、小島美子は、当時インドからの帰国間もない民族音楽学者、小泉文夫（1927-1983）に師事しました。小泉文夫は1959年に芸大の教員となり、精力的に民族音楽学の研究を展開しており、その時期が小島美子の在学期間と重なりました。二人の間には、その後も長きにわたり研究上の緊密な師弟関係が続きました。

しかし、小島が卒業論文で日本の作曲家である山田耕筰の研究に取り組んだ際には、小泉を含む当時の教員たちからは、そのテーマが楽理科の研究対象としては特異であると受け止められ、「変わり者」扱いされたと伝えられています。このエピソードは、既存の学問分野にとらわれず、独自の視点から研究を進める小島美子の姿勢を物語っています。

晩年には、小島と小泉は共に日本の音楽界において影響力を持つ存在となっていました。1979年と1980年には、二人は揃って日本レコード大賞の審査委員を務めています。この時の経験について、小島美子は、関係者からの度重なる贈答品の攻勢に辟易し、「レコ大や荷造りばかりがうまくなり」と皮肉交じりに語ったと伝えられています。この言葉からは、アカデミックな世界に身を置く研究者としての彼女が、商業的な側面を持つ音楽業界のあり方に対して感じていた違和感が滲み出ています。

メディア出演

研究活動に加え、小島美子はメディアを通じて一般の人々に日本の音楽文化を紹介することにも努めました。特に、NHK-FMのラジオ番組「日本民謡大観」（1995年4月9日 - 2000年3月26日）では、ナビゲーターとして長期間にわたり日本の豊かな民謡の世界をリスナーに届けました。

小島美子は、その生涯を通じて、日本の音楽が持つ歴史的、文化的深層を探求し続け、その研究成果を教育や著作、メディア活動を通じて広く共有することで、日本の音楽史および民俗音楽学の発展に大きく貢献しました。

もう一度検索