小川陽一

小川 陽一

小川陽一（おがわ よういち）氏は、日本の中国文学研究における重鎮の一人であり、東北大学名誉教授の肩書きを持つ学者である。特に明清時代に書かれた白話小説や、当時の人々の生活や知識がまとめられた日用類書という特殊な文献の研究を専門とし、これらの分野に多大な貢献をもたらした。1934年に生を受け、2024年1月20日にその生涯を閉じた。

経歴

小川氏は1934年、新潟県の地に生を受けた。学問への道を志し、東北大学大学院の中国文学修士課程を修了する。その後、研究者・教育者としてのキャリアをスタートさせ、愛知県立大学、福島大学、山形大学といった複数の大学で教壇に立ち、後進の指導にあたった。長年にわたり、東北大学教養部教授として教育・研究活動の中心を担う。1993年には、自身が長年取り組んできた日用類書研究の集大成ともいえる学位論文『日用類書による明清小説の研究』を東北大学に提出し、文学博士の学位を取得した。1997年に東北大学を定年で退官した後、名誉教授の称号を贈られた。退官後も研究への情熱は衰えず、大東文化大学中国文学科の教授として2005年まで教鞭を取り続けた。

研究内容と業績

小川氏の研究は、中国文学、特に明清時代の白話小説と日用類書という独自の領域に深く根差していた。明清小説は広く庶民に読まれた物語であり、当時の社会や文化を理解する上で貴重な資料である。一方、日用類書は、生活の知恵や知識、書簡のひな形などがまとめられたもので、これもまた当時の庶民生活の実態を知る上で欠かせない文献である。小川氏はこれらの文献を丹念に読み解き、これまであまり光が当てられなかった日用類書と小説の関係性などを明らかにし、明清文学研究に新たな視点をもたらした。

著作および編纂

その研究成果は数多くの著作として結実している。単著としては、庶民に親しまれた物語を取り上げた『乱世に咲く花：三国志演義』（日中出版、1988年）や、博士論文を基にした学術的著作『日用類書による明清小説の研究』（研文出版、1995年）がある。

また、小川氏の業績で特筆すべきは、坂出祥伸氏との共同作業による日用類書の一大集成プロジェクトである「中國日用類書集成」（汲古書院）の編纂である。このシリーズでは、当時の貴重な日用類書を復刻・影印する作業が行われた。以下はその主要な刊行書目である。

『五車拔錦』（全2巻、1999年）
『三台萬用正宗』（全3巻、2000年）
『五車萬寶全書』（全2巻、2001年）
『萬書淵海』（全2巻、2001年）
『萬用正宗不求人』（全2巻、2003年）
『妙錦萬寶全書』（全3巻、2003-2004年）

これらの編纂は、これまで研究が困難であった日用類書を多くの研究者が利用できるようになる画期的な事業であり、明清時代の社会・文化研究にとって計り知れない貢献となった。

家族

家族としては、甥に中国思想史研究者である名和敏光氏（山梨県立大学准教授）がいる。

まとめ

小川陽一氏は、明清小説と日用類書という専門分野において、教育・研究の両面から多大な貢献を果たした。特に日用類書研究におけるパイオニア的な業績と、貴重な文献の集成事業は、後世の研究に大きな影響を与えている。その生涯は、中国文学への深い愛情と探究心に満ちたものであった。

もう一度検索