類書

類書：百科事典的性格を持つ伝統的な書物

類書とは、古代中国および日本で発達した、独特の書物ジャンルです。現代の辞書や百科事典と類似した機能を持ちますが、その成り立ちや目的は現代のものとは大きく異なります。類書は、過去の書籍から単語の用例を引用し、天地人、草木鳥獣といった分類順、あるいは字韻順に配列することで、検索を容易にした点に特徴があります。そのため、百科事典としての機能も併せ持ち、幅広い知識を網羅しているものもありました。

類書の定義と歴史

類書の定義を現代語で言い換えると、「過去の書籍から用例を引用し、分類・配列することで検索を容易にした書物」となります。これは、現代のデジタル辞書や百科事典がコンピューターを用いて検索を効率化しているのと同様に、類書は人手で膨大な情報を整理し、効率的な検索を可能にしたと言えるでしょう。

類書の歴史は古く、中国では『呂氏春秋』や『淮南子』といった先駆的な書物が存在しますが、本格的な類書は魏の曹丕（文帝）の『皇覧』が最初だと考えられています（現存しません）。その後、初唐の欧陽詢『芸文類聚』、虞世南『北堂書鈔』、徐堅『初学記』などが現存する最古の類書として知られています。これらは漢詩の作成に役立つ用語集的な性格が強かったと考えられています。

唐代以降は、仏教文献を扱う『法苑珠林』（道世）、道教文献を扱う『無上秘要』（北周武帝撰とされる）、『雲笈七籤』（北宋代）などの専門的な類書も編纂されました。五代十国時代以降は、より実用的な目的を持った類書が登場し、宋代の『太平御覧』『冊府元亀』、明代の『永楽大典』『三才図会』、清代の『佩文韻府』『古今図書集成』などが代表的な例として挙げられます。

日用類書：実用的な生活百科事典

宋代から清代にかけては、印刷技術の発達などを背景に、実用的な生活百科事典である「日用類書」が多数編纂されました。これらは天文・地理から占い、法律、医学、教育、料理に至るまで、幅広い生活情報を網羅しています。『五車抜錦』『三台万用正宗』『居家必要事類全集』などがその代表例です。日用類書は、当時の庶民の生活に密着した知識を提供する重要な役割を果たしました。

日本における類書

日本においては、中国からの漢籍の輸入が容易ではなかったため、類書の伝来は非常に歓迎されました。『群書治要』や『太平御覧』などは、江戸幕府が金沢文庫から正確な写本を取り寄せ、さらに校訂を加えて普及に努めたことが知られています。

日本独自の類書としては、平安時代の『秘府略』（1000巻のうち2巻のみ現存）、『和名類聚抄』、江戸時代の『和漢三才図会』などが有名です。これらの類書は、日本の歴史や文化、自然に関する貴重な情報を伝えています。また、『類聚国史』のように、類書としての側面を持つ歴史書も存在します。

類書の重要性

類書は、単なる知識の集積というだけでなく、歴史研究においても重要な役割を果たしています。類書に引用されている文献の中には、現存しないもの（逸書）も多く含まれており、それらから引用された文章（逸文）は、失われた文献の復元や現存する文献の補完に不可欠な資料となっています。そのため、類書は、古代・中世の文献研究において非常に重要な役割を担っているのです。

関連文献

類書に関する研究書は多数存在します。研究を深めたい方は、以下のような文献を参照すると良いでしょう。

小川陽一『日用類書による明清小説の研究』
加地伸行『加地伸行著作集1 中国論理学史研究 経学の基礎的探求』
酒井忠夫『中国日用類書史の研究』
坂出祥伸『初学者のための中国古典文献入門』
* 酒井忠夫監修、坂出祥伸・小川陽一編『中国日用類書集成』

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