小林ハル

小林ハル：最後の瞽女の生涯

小林ハル（こばやしハル、1900年1月24日 - 2005年4月25日）は、明治時代に生後3か月で失明した日本の瞽女（ごぜ）です。5歳の時、瞽女としての厳しい修行を始め、新潟県内や近隣の県を巡業しながら、多くの困難を乗り越えていきます。晩年、彼女は「最後の長岡瞽女」、「最後の瞽女」として広く知られるようになり、その人生は多くの人々の心を捉えました。

幼少期と厳しい修行

新潟県で裕福な農家の末子として生まれたハルは、生後間もなく白内障を患い、視力を失ってしまいます。盲目の娘の誕生に村人からの偏見を恐れた家族は、彼女を屋敷の奥の部屋に閉じ込め、ほとんど名前で呼ばずに過ごさせます。食事も制限され、愛情に欠けた幼少期を過ごしました。

家族はハルの将来の生活を案じ、鍼医の弟子入りを試みましたが、失敗。最終的に、村を訪れた瞽女を弟子にする道を選びます。三条を拠点に活動する樋口フジを師匠として、5歳から21年間の厳しい修行が始まりました。修行は礼儀作法から始まり、三味線、唄の稽古は想像を絶する厳しさでした。指先や喉を痛めつけられながら、彼女は技術を磨いていきます。

特に厳しい寒稽古は、冬の信濃川の土手で、薄着、素足で発声練習を繰り返すものでした。この過酷な修行は、彼女の圧倒的な歌唱力の土台となりました。しかし、師匠フジからは、しばしば過酷な扱いを受け、精神的にも肉体的に苦しめられます。フジは、ハルを「金もうけの道具」としか見ていなかったのです。

独立と新たな師

13歳で一人前の瞽女として認められたハルでしたが、フジとの関係は改善しません。フジから酷使され、巡業から外されたハルは、長岡の瞽女組織のハツジサワを師匠として、新たなスタートを切ります。ハツジサワは、フジとは全く異なり、ハルを尊重し、温かく指導しました。

しかし、18歳の時、サヨという年上の晴眼者の瞽女との巡業中に、ハルはサヨから重傷を負わされてしまいます。この傷は、彼女の人生に大きな影を落とすことになります。

困難と葛藤の人生

ハツジサワの死後、ハルは坂井ツルを師匠とします。20代半ばには、幼い女児を引き取るも、病気で亡くすという悲しみを経験します。その後も、ハルは様々な困難に見舞われます。弟子だった土田ミスと暮らすことになったことで、按摩師の男に酷使され、金を奪われるなど、搾取され続ける日々を過ごします。終戦後も、その男からなかなか逃れることができず苦しみます。

ハルは、7年間の搾取ののち、男が病に倒れたのを機に高瀬温泉を離れます。1973年、彼女は瞽女としての活動を引退し、老人ホームに入所します。しかし、彼女の類まれな歌唱力は、専門家や文化人の間で注目を集め始めます。

再評価と晩年

老人ホームに入所後、ハルは再び瞽女唄を披露する機会を得ます。1978年には、「瞽女唄」の保持者として認定され、1979年には黄綬褒章を授与されます。その後も、多くの公演や取材を受け、弟子を指導し、彼女の唄は次の世代へと受け継がれていきます。

100歳を過ぎた後も、彼女は三条市で公演を行い、地元の人々を感動させました。2005年、105歳で生涯を閉じます。その人生は、数々の苦難と、それを乗り越える彼女の強さ、そして深い優しさで彩られていました。彼女の歌声は、今もなお、多くの人々の心に響き渡っています。

ハルの唄

ハルの唄は、独特の低く太い声と、抑揚の少ない、一本調子でありながらも、聴く者の心を深く揺さぶる力がありました。それは、彼女が長年培ってきた経験と、人生の苦楽が凝縮されたものでした。彼女は数多くの唄を覚え、時には自ら創作もしていました。彼女の唄は、瞽女唄の貴重な遺産として、未来へと伝えられています。

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