瞽女

瞽女：日本の盲目の女性芸能者

はじめに

瞽女（ごぜ）とは、日本の歴史において、視覚障碍を持つ女性が三味線などを演奏しながら各地を巡業し、歌や音楽を披露することで生計を立てていた芸能者です。中世後期から近世にかけて全国的に活躍し、特に新潟県を中心とした北陸地方で盛んでした。その歴史、文化、社会構造、そして現代における継承の試みまでを多角的に考察します。

起源と歴史

瞽女の起源は定かではありませんが、室町時代からその存在が確認できます。近世に入ると、三味線や箏を演奏するのが一般的となり、都市部では富裕層の家庭で音楽を教えたり、宴席で演奏したりする一方、農村部では浄瑠璃を基にした「クドキ」と呼ばれる語り物音楽を演奏しながら村々を巡業するようになりました。

江戸時代には、越後国（現在の新潟県）の高田や長岡、駿河国（現在の静岡県）の駿府など、各地に瞽女が集まって生活する「瞽女屋敷」が形成されました。また、各地の城下町や門前町にも独立した組織が生まれましたが、全国規模の組織は存在せず、幕府は各藩に管理を委ねていました。師弟関係が重視され、師匠のもとで芸を学び、独立後は独自の巡業ルートを確立していました。

組織と社会構造

主な瞽女組織として、新潟県では長岡瞽女と高田瞽女が知られています。他に、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知などにも多くの組織がありました。これらの組織は、座本制、家元制、頭屋制など、様々な運営形態をとっていました。

長岡瞽女は家元制で、「山本ごい」と呼ばれる瞽女頭が組織を統括していました。高田瞽女は座本制で、複数の師匠がそれぞれの弟子を養育し、最年長の師匠が座本となりました。師弟関係は厳しく、弟子は師匠への絶対的な服従が求められ、厳しい規律の下で修行しました。

芸能と生活

瞽女の芸能は、「瞽女唄」と呼ばれる独特の節回しを持つ歌や、「葛の葉子別れ」などの説話などを三味線や胡弓の演奏とともに披露するものでした。テレビやラジオが普及していない時代には、農村部の貴重な娯楽として歓迎されていました。しかし、生活は必ずしも恵まれていたわけではなく、やむを得ず売春を行う場合もあったようです。

衰退と現代

明治以降、失明者の減少や社会状況の変化によって、瞽女の数は次第に減少していきました。第二次世界大戦後は、ほとんどの瞽女が廃業し、その伝統芸能は衰退の道をたどりました。しかし、現在でもその芸を継承し、後世に伝える活動が続けられています。

衣装、道具、符牒

瞽女の衣装、三味線などの道具、そして仲間内で用いられた符牒なども、その文化を理解する上で重要な要素です。衣装には組織によって独自の規定があり、道具は霊力信仰と深く関わっていました。符牒は、社会からの疎外感や仲間意識の強化に役立っていたと考えられます。

研究と資料

瞽女とその芸能は、日本の芸能史や社会史を研究する上で重要な対象です。近年、民俗学者や研究者らによる調査・研究が進んでおり、多くの文献や記録が公開されています。これらの資料は、瞽女の生活や文化をより深く理解する上で不可欠です。

まとめ

瞽女は、日本の歴史の中で、視覚障碍を持つ女性たちが独自の芸能文化を築き上げてきた存在です。その歴史、社会構造、芸能、そして現代における継承の試みは、私たちに多くの示唆を与えてくれます。本記事が、読者の皆様にとって、日本の伝統芸能と社会史の一端を理解する助けとなれば幸いです。

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