小核

小核（しょうかく）

「小核（しょうかく）」という用語は、細胞内にある比較的小さな核状の構造を指す際に用いられますが、その具体的な意味や機能は、対象となる生物や研究分野によって大きく異なります。一般的には、細胞の主たる核（主核）とは区別される構造であり、特定の細胞の機能や状態を示す指標となります。植物の果実の一部である小核果に関連する用語も存在しますが、これは細胞内の小核とは概念が異なるため、ここでは扱いません。本記事では、主に生物学および医学・薬学分野における細胞内の小核について解説します。

繊毛虫における小核

繊毛虫は、一つの細胞内に二種類の核を持つことが特徴です。これらは「大核」と「小核」と呼ばれ、それぞれ異なる役割を担っています。大核は、細胞の日常的な生命維持、栄養摂取、代謝など、いわゆる栄養核としての機能を受け持ちます。一方、小核は遺伝子の本体であり、主に生殖に関与する「生殖核」として機能します。そのため、小核は生殖核とも呼ばれます。

無性生殖としての通常の細胞分裂時、大核と小核はそれぞれ分裂して娘細胞に分配されます。小核は、遺伝情報を正確に次世代に伝えるために、高等生物の細胞分裂と同様の有糸分裂を行います。これに対して大核は、比較的単純な無糸分裂によって分裂が進みます。

繊毛虫が有性生殖を行う際は、接合という過程を経ます。この接合時には、まず大核は消滅します。その後、小核が減数分裂を行い、新しい核が形成されます。この核が互いの細胞間で交換され融合することで遺伝物質が混合され、娘細胞において新しい大核と小核が再構築されます。このように、繊毛虫の小核は、遺伝子の組み換えと伝達を通じて、種の維持と進化に不可欠な役割を担っています。

医学・薬学分野における小核

医学や薬学の領域で「小核」と呼ぶ場合、これは細胞質中に観察される、本来の細胞核とは別の小型の核様構造物を指します。これは正常な細胞では通常見られず、細胞に何らかの異常が生じているサインとなります。

小核が形成されるのは、細胞が分裂する過程で染色体に不分配が生じた結果です。細胞分裂時、全ての染色体は正確に複製され、娘細胞へ均等に分配される必要があります。しかし、特定の化学物質や放射線、あるいは細胞自身の遺伝的欠陥などによって染色体が損傷したり、分裂装置に異常が生じたりすると、一部の染色体全体や、染色体が断片化したものが正常な主核に取り込まれず、細胞質中に残されてしまいます。この細胞質中に取り残された染色体やその断片が、膜に包まれるなどして顕微鏡下で観察されるようになったものが小核です。

染色体への損傷や不分配は「遺伝毒性」と呼ばれる細胞への有害な影響の一種です。小核の形成が遺伝毒性と密接に関連していることから、物質の安全性を評価する目的で、小核の出現頻度を調べる「小核試験」が広く実施されています。これは、特定の物質が細胞の遺伝物質に損傷を与える可能性（遺伝毒性）を評価する重要な試験法の一つです。

小核試験には、生きた動物（例えばマウス）に物質を投与し、骨髄や末梢血中の幼若赤血球などを対象として小核の出現を調べるインビボ（in vivo）試験と、培養した細胞に物質を作用させて小核の出現を調べるインビトロ（in vitro）試験があります。試験では、細胞標本をDNAに特異的な染色液（アクリジンオレンジなど）で染色し、顕微鏡を用いて小核を持つ細胞を数え、その出現頻度を統計的に評価します。この頻度が高いほど、被験物質の遺伝毒性が強い可能性が示唆されます。

このように、「小核」は繊毛虫においては正常な生殖機能を担う重要な構造である一方、医学・薬学分野においては、細胞の遺伝毒性や異常状態を示す病的な構造として捉えられています。同じ名称でも、分野によってその意味合いが大きく異なる典型的な例と言えるでしょう。

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