小森はるか

小森はるか

小森はるか（1989年 - ）は、日本の映像作家です。彼女の作品は、東日本大震災後の東北地方を主な題材とし、自ら撮影・編集したドキュメンタリーが中心です。特に『息の跡』（2016年）や『空に聞く』（2018年）といった作品で広く知られています。

経歴

静岡県に生まれた小森はるかは、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科を卒業後、同大学院修士課程を修了しました。大学院在学中には、映画美学校のフィクション初等科でも学びました。2011年の東日本大震災発生後、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことが、その後の活動の大きな契機となります。この体験をきっかけに、大学の同級生である画家・作家の瀬尾夏美と共に「小森はるか＋瀬尾夏美」として、震災後の東北の現実を映像と文章で記録する活動を開始しました。翌2012年からは3年間にわたり、岩手県陸前高田市に制作拠点を移し、精力的に映像作品の制作を続けました。

2012年には、初めての監督作品となる短編『the place named』を発表。この作品は、ソーントン・ワイルダーの戯曲『わが町』に着想を得つつ、ドキュメンタリーの手法で構成されています。以後も、宮城県のせんだいメディアテークが運営する「3がつ11にちをわすれないためにセンター」の参加者として、被災地の暮らしや営みを記録する活動に関わります。2014年には「小森はるか＋瀬尾夏美」のユニットとして、フィクションとドキュメンタリーを組み合わせた初の長編映画『波のした、土のうえ』を制作しました。

2015年には、東北の暮らしを多角的に記録・発信する目的で、仙台にて一般社団法人NOOKを設立。画家や他の映像作家らと共に、展覧会やラジオ番組など多様なメディアで活動を展開しました。

2016年には、小森単独で監督したドキュメンタリー映画『息の跡』を発表。この作品は2017年に劇場公開された後、2018年にはドイツで開催された日本映画祭「ニッポン・コネクション」で審査員賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ました。

2018年には、愛知芸術文化センター・愛知県美術館の制作委嘱により『空に聞く』を監督。この作品は、翌年のあいちトリエンナーレ2019や山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されました。

2019年には、再び「小森はるか＋瀬尾夏美」ユニットとして『二重のまち／交代地のうたを編む』を制作。この作品は、あらかじめ創作された物語と被災地の現在の時間を、出演者が行き来しながら表現するという独自の手法が高く評価され、2021年のシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭で国際コンペティション部門特別賞を受賞しました。

2025年には、恵比寿映像祭2025のコミッション・プロジェクトとして『春、阿賀の岸辺にて』を制作。新潟水俣病をテーマとした佐藤真監督の『阿賀に生きる』から30年を経て、記憶の継承に取り組む人々を描いたこの作品は、同映像祭で特別賞を受賞しました。

評価

小森はるか氏と瀬尾夏美氏の共同制作については、批評家の佐々木敦氏が『二重のまち／交代地のうたを編む』を取り上げ、被災者に対する外部の取材者としての自身の立ち位置を自覚した上で制作が開始されている点を評価し、その手法を「熟慮の末に辿り着いた、誠実かつ真摯な方法」と評しています。また、評論家の蓮實重彦氏は『空に聞く』などを「現代を撮っていても、異なる時間軸で創作している」と指摘し、「映画的センスはずばぬけている」と高く評価しました。

主な受賞

2017年：第13回KINOTAYO現代日本映画祭 審査員賞 - 『息の跡』
2018年：ニッポン・コネクション（ドイツ） 審査員賞 - 『空に聞く』
2021年：シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭（イギリス） 特別賞 - 『二重のまち／交代地のうたを編む』
2025年：恵比寿映像祭2025 第2回コミッション・プロジェクト特別賞 - 『春、阿賀の岸辺にて』

小森はるかの作品は、震災という未曾有の出来事と向き合い、被災地の日常、人々の声、土地の記憶を、繊細かつ誠実な眼差しで捉え続けています。瀬尾夏美との協働や、多分野のアーティストとの連携を通じて、映像表現の新たな可能性を追求し、国内外にその活動の幅を広げています。

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