小池寿子

小池寿子（こいけ ひさこ）氏は、1956年5月4日に生まれた日本の美術史家です。國學院大學文学部で教授として教鞭を執り、主に西洋美術史、特に中世美術や15世紀北方フランドル美術を専門としています。

群馬県前橋市の出身である小池氏は、美術作品に表された人間の死生観を深く掘り下げる研究で知られています。中世ヨーロッパで流行した「死の舞踏」に関する研究は、小池氏の活動の中でも特に重要な位置を占めており、この分野における第一人者として広く認識されています。また、近年は、死という普遍的なテーマに加え、絵画などに表現された運命観や身体観といった、人間の存在に関わるテーマにも研究の幅を広げています。

その学歴は、お茶の水女子大学文教学部哲学科美学美術史専攻を1979年に卒業した後、同大学大学院人間文化研究科比較芸術学博士課程で研究を深め、1985年に満期退学しています。キャリアの出発点は、文化女子大学家政学部生活造形学科で、1989年に専任講師に着任し、後に助教授を務めました。1998年には國學院大學に助教授として移り、2001年からは教授として教育・研究活動を続けています。

小池氏の研究成果は、数多くの単著、編著、翻訳として発表されています。特に、1999年に刊行された『死をみつめる美術史』は、その斬新な視点と深い考察が高く評価され、2000年に芸術選奨新人賞を受賞しました。これは、小池氏が確立した研究分野の重要性を示すものとなりました。初期の代表作としては、死の舞踏を本格的に紹介した『死者たちの回廊 ― よみがえる死の舞踏』（1990年）や、『屍体狩り』（1993年）、『死者のいる中世』（1994年）などがあり、一貫して「死」というテーマを探求してきたことがうかがえます。

他にも、美術作品における身体の表現に焦点を当てた『描かれた身体』（2002年）、人間の内面的な世界に迫る『内臓の発見』（2摩書房〈筑摩選書〉、2011年）、特定の画家、例えばヒエロニムス・ボスの謎に迫る『謎解きヒエロニムス・ボス』（2015年）など、多岐にわたるテーマの著作があります。

また、研究の普及や後進の育成にも力を入れており、『西洋美術の歴史』シリーズの編纂や、『一日で鑑賞するルーヴル美術館』といった一般向けの美術鑑賞ガイドの編著にも携わっています。海外の重要な美術史研究書の翻訳も数多く手掛けており、キャスリーン・コーエンの『死と墓のイコノロジー』やエリー・フォールの『中世美術』などを日本に紹介することで、国内における西洋美術史研究の発展に貢献しています。

小池寿子氏の研究活動は、単なる歴史的な検証に留まらず、美術作品を通じて人間が普遍的に抱える生、死、身体、運命といった根源的な問いと向き合う視点を提示しています。その洞察力に富んだ著作は、専門家だけでなく、多くの一般読者にも美術史への新たな扉を開き、深い感銘を与えています。

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