小笠原博

小笠原博：不屈の精神で日本ラグビー史に名を刻んだ男

小笠原博（おがさわら ひろし、1943年4月23日 - 2022年8月26日）は、日本の元ラグビー選手です。青森県出身で、その情熱的なプレーと不屈の精神で、日本のラグビー界に大きな足跡を残しました。

ラグビーとの出会い

弘前実業高校時代は、長身の野球投手として活躍していましたが、肩を故障。その後、習志野自衛隊に入隊し、教育隊の命令でラグビーを始めました。最初は当たり負けしていたものの、持ち前の負けじ魂に火が付き、すぐに当たり勝てるようになります。この頃から、複数の大学から誘いを受けるほどの才能を開花させました。しかし、大学に進むと年下の先輩から指導を受けることを嫌い、21歳で近鉄に入社しました。

近鉄黄金時代の一翼を担う

近鉄では、坂田好弘、石塚広治、今里良三、原進（後の阿修羅・原）らと共にプレーし、近鉄の黄金時代を築き上げました。全国社会人大会で4回、日本選手権で3回優勝するなど、数々の栄光を手にしました。特に、スクラムやラックでの激しいプレーは、チームの勝利に大きく貢献しました。

日本代表での活躍

1966年、大西鐵之祐の目に留まり、ラグビーを始めてわずか1年で日本代表に選出されました。当時の小笠原は、まだ当たるしか能がなかったと言いますが、184cm、78kgと恵まれた体格と潜在能力を発揮。ニュージーランド遠征では、現地で肉を好きなだけ食べ、体重を90kgまで増やし、著しく成長を遂げました。日本代表では、大西以外の指導者がいなかったため、海外の書籍を取り寄せて独学でロックの動きを研究するなど、貪欲にラグビーを学びました。

1968年のニュージーランド遠征では、歴史的な勝利となったオールブラックスジュニア戦で初キャップを獲得。この試合は、小笠原にとって最も記憶に残る試合となりました。試合前は現地のニュージーランド人に勝てないと言われていましたが、実際に試合で当たってみると手応えを感じ、大西監督から「いけ。懐に入れ」と指示を受けました。結果、スクラムでもラックでもボールの争奪で負けず、バックスのサインプレーも面白いように決まり、歴史的勝利に貢献しました。当時、小笠原はラグビーを始めてわずか3年程度でした。

以後、日本代表の不動の右ロックとして活躍し、近鉄を退社後も故郷の弘前クラブに所属してプレーを続け、通算24キャップを獲得しました。

代表引退とその後

1977年、最後の代表キャップとなったスコットランド戦では、額を切って血まみれになりながらも奮闘しました。この試合は、当時青森県教育委員会に勤務していた小笠原が特別コーチとして代表合宿に参加し、その圧倒的なパフォーマンスから現役復帰を求められた末の試合でした。しかし、試合後に病院から交歓パーティーに遅れて参加すると、若手選手たちが飲み騒いでいたことに腹を立て、そのまま弘前に帰ってしまいます。それ以降、日本代表との交流を絶ちました。

テストマッチ後には、全身打撲や全身痙攣でシャワー室で倒れることが多かったというエピソードが、彼の激しいプレーぶりを物語っています。後年の対談では、「相手を殴らなかった試合はない」と語るほど、荒々しい試合運びが特徴でした。

指導者としての活躍

現役引退後は、ワールドの初代監督に就任。スクラムを強化し、土台を培う指導を徹底しました。輸入理論や外国人の補強に頼らず、徹底的に基礎を重視する指導を行いました。その後、一身上の都合で監督を辞任。屋久島高校でラグビー部を指導するようになります。

屋久島での生活

1995年頃から、娘を離島で育てたいとの思いから鹿児島県の屋久島に移住。自ら山を造成し、庭を造り、家を建て、自然の中で生活を送りました。ラグビーに関するものは全て手放し、ラグビーの話も嫌いになり、試合もNHK地上波の中継程度しか見なくなったと言います。彼は、ラグビーから完全に距離を置き、新たな人生を歩み始めました。

その生涯

2022年8月26日、移住先の屋久島で亡くなりました。79歳でした。小笠原博のラグビーに対する情熱と、その後の人生は、多くの人々に感動と勇気を与え続けています。

関連項目

青森県立弘前実業高等学校
習志野自衛隊ラグビー部
近鉄ライナーズ

参考文献

第６回　小笠原博氏インタビュー - 桜を背負った男たち - バックナンバー
知と熱（ラグビーの変革者　大西鉄之助）より－2 - 瑞穂のラグビー好き 2006年2月24日付
『ザ・ワールドラグビー』 （大友信彦 編、新潮社、ISBN 4104627011）の30頁
* 『ラグビー 戦後70年史』（ベースボールマガジン社、2015年）p14-17

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