小笠原流礼法

小笠原流礼法は、室町時代に成立した武家の礼法を起源とする、日本古来の礼儀作法です。1992年にはNPO法人小笠原流・小笠原教場によって商標登録されています。

概要

小笠原流礼法は、室町時代に足利義満に仕えた今川氏頼、伊勢憲忠、小笠原長秀の三氏によって確立された『三議一統』という武家の礼法（室町礼法）をルーツとしています。この三氏がそれぞれの家系で礼法を伝え、今川流、伊勢流、小笠原流が生まれました。

小笠原流礼法が一般に広まったのは、江戸時代初期のことです。小笠原流を学んだ水島卜也が江戸に私塾を開き、礼法を教えました。水島は、徳川綱吉の子である徳川徳松の髪置の儀で白髪を調進したことで名を知られ、多くの門下生を抱えることになりました。その結果、水島派の小笠原流礼法が全国へと普及していきました。

『小笠原流躾方』や『小笠原百箇条』といった書籍も出版され、私塾や寺子屋でマナーの教科書として用いられました。特に有名な『小笠原百箇条』には、「人前で楊枝を使って歯を掃除するのはマナーが悪い」といった、日常生活における礼儀作法が箇条書きでまとめられています。最も古い版は寛永9年（1632年）のもので、江戸時代を通じて広く読まれました。

ただし、江戸時代には小笠原流は将軍家の「御留流」であったため、小笠原家による正式な流儀が一般に広まることはありませんでした。

明治時代に入ると、旧小倉藩主の小笠原家当主、小笠原忠忱が小倉女学校（現在の福岡県立小倉西高等学校）の依頼に応じて『小笠原流女礼抄』（1896年）を著しました。小笠原惣領家の流派は、昭和期に小笠原忠統によって小笠原惣領家礼法研究所として発展し、現在は小笠原敬承斎が宗家を務めています。

一方、徳川将軍家に弓馬術礼法を指南した旗本の小笠原家（小笠原平兵衛家）の流派は、昭和時代に教育者として活動した小笠原清信によって全国に広められました。この流派は現在、小笠原流弓馬術礼法小笠原教場（小笠原教場）として存続し、小笠原清忠が宗家となっています。

主な流派

現代において小笠原流礼法を伝える主な流派は、以下の二つです。

小笠原惣領家礼法研究所（小笠原惣領家）：旧小倉藩主小笠原家の子孫が伝える流派で、現在の宗家は小笠原敬承斎です。
小笠原流弓馬術礼法小笠原教場（小笠原教場）：旧旗本小笠原家の子孫が伝える流派で、現在の宗家は小笠原清忠です。

成立

小笠原家は、初代・小笠原長清を祖とする清和源氏の流れを汲む家系です。小笠原長清は、源頼朝の弓馬術礼法の師範を務めました。その後、道統は長男の長経に伝えられ、長経も源実朝の師範となっています。

長経の息子である長忠と清経は、それぞれ信州松本の城主と伊豆の守護職となり、小笠原一族は二つの流れに分かれて発展しました。弓馬術礼法は長男の長忠が継承し、小笠原一族の惣領家となりました。

惣領家では三階菱の紋を、清経家では三階菱の中に十字を入れた紋を用いるようになりました。戦国時代を経て、清経家17代目の貞経は、惣領家の長時・貞慶親子から弓馬術礼法の道統を継承しました。

江戸時代に入ると、惣領家は豊前小倉、肥前唐津、越前勝山の城主として存続し、貞経は徳川家康に招かれ、徳川秀忠の弓馬術礼法師範となりました。以降、小笠原家は幕府の弓馬術礼法師範を務めました。

小笠原貞経の子孫が小笠原流弓馬術礼法（小笠原教場）の系統に、旧小倉藩主の小笠原家が小笠原惣領家礼法研究所の系統につながっています。

小笠原流弓馬術礼法（小笠原教場）

小笠原流弓馬術礼法は、礼法、弓術（弓道）、弓馬術（流鏑馬）の三つを教授するもので、礼法はその一部を構成します。小笠原流礼法は、弓馬術礼法小笠原流の一部であり、小笠原教場でのみ教授されています。

昭和29年に小笠原家30世宗家を継承した小笠原清信は、多数の著書を著したり、全国の教場で指導を行うなど、流派の普及に尽力しました。小笠原清信は明治大学文学部教授や日本古武道振興会会長を歴任し、昭和時代の弓道の名人として知られています。清信の没後、息子の小笠原清忠が宗家を受け継ぎました。

小笠原惣領家礼法研究所（小笠原惣領家）

旧小倉藩主小笠原家32代当主である小笠原忠統が昭和40年代に事実上創始しました。小笠原忠統は相模女子大学教授や日本儀礼文化協会総裁を歴任し、戦前の旧伯爵としても知られています。主に小笠原流のマナー教室を通じて広まりました。

参考文献

小笠原清忠　「小笠原流礼法」
島田勇雄樋口元巳　「大諸礼集―小笠原流礼法伝書」 (東洋文庫)

外部リンク

弓馬術礼法小笠原教場 - 小笠原教場系の小笠原流礼法の公式サイト
 小笠原流礼法ウェブサイト - 小笠原惣領家系の小笠原流礼法の公式サイト

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