小菅正夫

小菅正夫（こすげ まさお）

日本の獣医師であり、数々の挑戦で知られる動物園経営者。特に旭川市旭山動物園の再生を手がけた人物として著名。1948年6月17日、北海道札幌市に生まれる。現在は札幌市環境局の参与として、円山動物園の担当を務めている。また、北海道大学の客員教授でもある。

経歴

札幌市で育ち、北海道札幌南高等学校を卒業後、北海道大学獣医学部へ進学。大学時代は学業の傍ら、柔道に熱心に取り組み、部活動ではキャプテンを務め、四段の段位を取得するほどの腕前だった。その柔道で鍛え上げられた体格が、その後の進路選択に影響を与えるユニークなエピソードがある。本人によると、過酷な練習により腕が太くなりすぎたため、産業獣医師の仕事で牛の直腸に腕を入れて検査することが困難になったと感じ、産業獣医師の道を断念したという。

卒業後の進路に悩んでいた時期、偶然にも旭山動物園が獣医師を募集していることを知り、応募。1973年に同園に獣医師として入園する。その後、園内でキャリアを積み、1986年には飼育係長、1991年には副園長を歴任。そして1995年、園長に就任した。

園長就任当時、旭山動物園は入場者数の低迷に苦しみ、閉園の危機に瀕していた。小菅氏は、この状況を打破するため、動物の生態や行動をありのままに見せる「行動展示」という独自の展示手法を積極的に導入。動物たちが生き生きと暮らす姿を見せることで、来園者に感動と学びを提供するスタイルが大きな反響を呼んだ。例えば、ペンギンが水中トンネルを泳ぐ「ぺんぎん館」や、アザラシが円柱水槽を上下する「あざらし館」といった施設は、動物の自然な動きを間近で観察できるように設計されており、国内外から注目を集めた。「あざらし館」は2004年には日経MJ賞を受賞するなど、その革新的な取り組みは高く評価された。

小菅氏のリーダーシップと斬新なアイデアにより、旭山動物園は再生を遂げ、日本最北に位置しながらも、年間入場者数において日本屈指の人気動物園へと成長を遂げた。

退職後の活動

2009年3月、旭山動物園を定年退職。翌月からは一年間、同園の名誉園長を務め、引き続き動物園に関わり続けた。

動物園運営で培った経験や知名度から、政治の世界への関与も検討された。2010年11月に行われる旭川市長選挙への出馬意向を示したが、その後撤回している。

2015年10月からは、札幌市環境局の参与として、札幌市円山動物園を担当することになった。かつて自身が再建した旭山動物園での経験を活かし、故郷の動物園の活性化に力を注いでいる。

動物園経営や動物に関する深い知識と経験は、メディアや文化活動にも活かされている。2017年6月には、ドキュメンタリー映画『生きとし生けるもの』の監修を務めた。

その他の活動・著作

現在も、NHKラジオの『夏休み子供科学電話相談』に出演するなど、メディアを通じて科学や自然の魅力を伝える活動を行っている。

また、旭山動物園での経験や哲学に基づいた著書も多数出版しており、ベストセラーとなっている。主な著書としては、『旭山動物園園長が語る命のメッセージ』（竹山書房、2005年）、『「旭山動物園」革命―夢を実現した復活プロジェクト』（角川書店、2006年）、共著による『戦う動物園―旭山動物園と到津の森公園の物語』（中央公論新社、2006年）などがある。これらの著作を通じて、動物への愛情、命の大切さ、そして組織改革における情熱と戦略について広く訴えかけている。

北海道大学柔道部の後輩には、作家の増田俊也氏がおり、氏の小説『七帝柔道記』には、小菅氏の大学時代の姿も描かれている。

小菅氏の人生は、獣医師としての専門知識に加え、柔道で培った不屈の精神と、閉園寸前の動物園を日本一の人気施設へと変貌させた類稀なる経営手腕が融合したものであると言えるだろう。その情熱と行動力は、多くの人々に感動と影響を与えている。

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