小西重直

小西 重直（こにし しげなお）

明治から昭和にかけて活躍した日本の教育学者（1875年1月15日 - 1948年7月21日）。京都帝国大学の第9代総長を務め、教育界に大きな足跡を残した。

苦難を乗り越えた学問への道

山形県米沢市に生まれた小西は、幼名を代吉といった。旧米沢藩士で一刀流師範の家柄であった富所家に生まれるが、明治維新後の困窮により生活は苦しく、父を失った後は、母が彼との無理心中を図るという壮絶な経験を持つ。その後、母の従兄にあたる旧会津藩士、小西馬之允の養子となり、小西姓を名乗ることになる。米沢の私立日新館、福島尋常中学を経て第二高等学校に進学。この学生時代には学費に極度に窮し、廃屋や廃寺に寝泊まりし、襖を敷物や掛け物代わりに使っていたという。しかし、故郷の米沢教育会からの温かい支援を得て、東京帝国大学文科大学哲学科社会学部に進学。卒業論文として「倫理上の自我」を執筆し、優秀な成績によって恩賜の銀時計を授与される栄誉に浴した。後に、尊敬する教育者の名から一字ずつ取り、代吉から重直へと改名している。

独自の教育哲学と大学での活動

大学卒業後、ドイツへの留学を経て、第七高等学校（現在の鹿児島大学）校長を務める。その後、教育行政家で京大総長でもあった澤柳政太郎の招聘を受け、京都帝国大学文学部の教授に就任した。ここで小西は、西洋教育学の深い知見を基盤としながらも、広瀬淡窓や細井平洲といった日本の思想家の考え方を取り入れ、彼独自の教育哲学を構築していく。教育の本質を探求し、実体験を通じた学びを重視する「労作教育」などを提唱。文学部長在任中には、代表的な著作となる『教育の本質観』や『労作教育』を刊行し、当時の教育思想に大きな影響を与えた。

滝川事件と総長辞任

1933年（昭和8年）、小西は京都帝国大学の総長として、いわゆる「滝川事件」に直面する。これは、京大法学部の滝川幸辰教授の著書に対し、文部省が内容を問題視し、教授の罷免を大学に要求した事件である。学問の自由と大学の自治に対する国家権力からの重大な干渉として、日本の大学史において象徴的な出来事となった。総長として板挟みになった小西は、文部大臣からの要求を最後まで受け入れず、抗議の意思を示す形で総長職を辞任した。

しかし、その対応については様々な評価がある。文部省と京大内部、特に法学部との間で揺れ動き、事態の収拾に苦慮する姿は「煮え切らない」とも評され、滝川事件のような重大な局面を乗り切る総長の器量ではなかったという厳しい見方もある。同僚の朝永三十郎（物理学者・朝永振一郎の父）は、小西の八方美人とも取れる人柄について、「小西君に褒められたってちっとも嬉しくない。原君（歴史学者・原勝郎）に悪口言われてもちっとも腹が立たないように」と評したと言われるほどであった（松尾尊兊『滝川事件』より）。

生涯を教育の実践に捧ぐ

京大総長辞任後も、小西は教育への情熱を失うことはなかった。創設に関わった玉川学園や成城学園の顧問を務めながら、自身の教育観を具体的な形で実践し続けた。特に、アジアの産業を担う技術者を育成する必要性を感じ、興亜工業大学（現在の千葉工業大学）の創設に尽力したことは特筆される。この大学は全寮制を取り入れ、当時としては東京帝国大学に次ぐ工学教育機関として多くの優秀な若者が集まったと言われる。また、立命館大学の予科および中学校で学監を務めるなど、精力的に活動した。

第二次世界大戦後、荒廃した祖国日本の復興を願い、自ら開墾作業に従事するなど現実的な勤労生活を送った。同時に、自身の壮絶な幼少期の経験、特に親との別れという深い傷から、戦争で親を失った子供たち、いわゆる戦争孤児への教育支援に並々ならぬ関心を寄せ、彼らを励まし、協力を惜しまなかった。このように、小西重直は波乱に満ちた生涯の中で、一貫して教育の力と可能性を信じ、その実践に人生のすべてを捧げた人物であったと言える。会津会会員でもあった。

栄典

1930年（昭和5年）10月15日 - 勲二等瑞宝章
瑞宝章

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