尚武のこころ

『尚武のこころ』の概要

三島由紀夫が晩年に行った対談を集めた『尚武のこころ』は、彼の思想や評論に触れるうえで欠かせない資料となっています。この書籍には、1968年から1970年にかけて行われた10回の対談が収録されており、著名な人々との対話を通じて、三島の深い思想と彼が抱えていた問題意識が鮮明に浮かび上がります。

対談の内容

この対談集には、政治問題や文化、さらにはヤクザ映画、空手など多岐にわたるテーマが扱われています。例えば、小汀利得との対談では「天に代わりて」というタイトルでの対話が、また、中山正敏との「サムライ」というセッションでは、日本の伝統的な武士道に焦点が当てられています。旅先や趣味の話に加え、社会の現象に対する厳しい視点が織り交ぜられています。

対談した人物たち

収録されている対談相手には、映画監督や作家、評論家など多士済々で、例えば、石原慎太郎とは「守るべきものの価値」というテーマで対話し、互いに自らの信念を語り合いました。この対話で三島は、特に本質的な価値についての議論が印象深かったと後に述懐しています。対談を通じて彼は、相手の内面に迫り、双方にとって新たな視座を得る貴重な体験を持ったと記しています。

影響と位置づけ

『尚武のこころ』は1970年に初版が発行され、その後1980年代後半まで重版が続きましたが、現在では品切れとなっています。これは、三島の思想が時代を超えて今なお重要であることを示しています。彼の遺した言葉や思考は、現在の我々に何を問いかけているのか、多くの読者がそれに思いを馳せています。

収録作品の機微

対談の中で「刺客と組長――男の盟約」では、映画『人斬り』での三島の役を引き合いに、男の美学と倫理について語り合う場面が印象的です。また、「二・二六事件と全学連学生との断絶」では、堤清二との対話を通じて、日本における政治的運動の意味やその影響について触れています。興味深いことに、対談の最後には、自らの思想の素直な悔恨を示しつつ、彼自身の言葉に対する忌避感も伺えます。

まとめ

三島由紀夫の『尚武のこころ』は、彼の多面的な姿勢や理念が人々との対話を通じて具体化される貴重な記録です。それはただ過去の文化の産物というわけではなく、現代においてもなお、我々に多くの問いを投げかけています。三島の言葉は、彼が求めた理想や価値観を思い起こさせるとともに、私たち自身の立ち位置を見直すきっかけにもなります。

もう一度検索