尹錫悦韓国大統領の逮捕

尹錫悦韓国大統領逮捕事件

2025年1月15日、韓国の第20代大統領である尹錫悦氏が、非常戒厳宣布に関連する捜査の過程で、現職のまま韓国警察によって逮捕されました。これは、韓国の憲政史上、現職大統領が逮捕された初めての出来事です。

この逮捕に至る背景には、2024年12月3日の非常戒厳宣布があります。尹大統領は、テレビ演説を通じて、北朝鮮の脅威や国内の「従北反国家勢力」に対抗するためとして非常戒厳を発令しました。この布告には、国会や地方議会、集会を含む政治活動の禁止、言論の自由の停止といった内容が含まれており、一部報道では野党議員を含む政治的反対者の逮捕も命じられたと伝えられました。しかし、戒厳令宣布の真の目的や国会への軍隊投入の意図については議論が分かれており、後に選挙管理委員会への立ち入り調査が主目的の一つであったとの証言も出ています。

戒厳令の宣布を受け、国会には戒厳軍が配備され、出入口が封鎖される事態となりました。これに対し、国会議員らは本会議で満場一致により戒厳令解除を要求する決議案を可決。その結果、尹大統領は12月4日未明に戒厳令を解除せざるを得なくなりました。この混乱を受けて、12月14日には国会で尹大統領に対する弾劾訴追案が可決され、憲法裁判所が最終決定を下すまで、尹大統領は職務停止となりました。その後、大統領権限代行を務めた韓悳洙（ハンドクス）国務総理も弾劾され、崔相穆（チェサンモク）経済副総理兼企画財政部長官が権限代行を引き継ぐ状況となっていました。

非常戒厳宣布後、高位公職者犯罪捜査処（公捜処）を中心に、関連捜査が本格化します。12月11日には尹大統領が被疑者として立件され、大統領室を含む関係機関に対する家宅捜索が試みられましたが、大統領警護処の非協力に直面しました。公捜処は非常戒厳に関する捜査に関連し、尹大統領に対し計3度にわたって出頭を求めましたが、尹大統領はいずれも応じませんでした。この状況を受け、公捜処は12月30日に逮捕令状を請求し、翌31日にはソウル西部地方裁判所から逮捕令状が発付されました。

逮捕令状の発付後、2025年1月3日には、捜査当局（公捜処および警察）によって大統領官邸での1回目の逮捕令状執行が試みられました。約150名の捜査官が投入され、官邸周辺には警察車両によるバリケードが構築されました。捜査官らは官邸内部に進入しましたが、大統領警護処職員による人間のバリケード、さらに陸軍部隊による阻止線、そして車両による三重のバリケードによって行く手を阻まれました。大統領警護処は、裁判所が官邸への捜索における刑事訴訟法上の特例適用を除外する決定を下した後も、警護区域であることを理由に捜査への抵抗を続けました。公捜処側は職務妨害等で警告を発しましたが、物理的な抵抗と現場人員の安全上の懸念から、執行は約5時間半後に中断されました。

この執行妨害に対し、捜査当局は妨害行為を行った大統領警護処長に対する捜査に着手しました。尹大統領側は逮捕・捜索令状の執行に対する異議申立てを行いましたが、1月5日、ソウル西部地方裁判所はこれを棄却。裁判所は、令状の法的根拠や管轄権について、尹大統領側の主張を退ける判断を示しました。一方、この間、官邸前では尹大統領の逮捕に反対する支持派デモ（一部議員も参加）と、逮捕を要求する市民デモ（通称Kissesデモ）が発生し、社会の分断状況が浮き彫りとなりました。

最初の逮捕令状の期限切れを受け、公捜処は1月7日に逮捕令状を再請求し、同日再び発付されました。捜査当局は再度の執行に向けて準備を進め、陸軍首都防衛司令部55警備団からの協力も取り付けました。そして2025年1月15日早朝、2回目の逮捕令状執行が開始されました。官邸入口では、尹大統領の弁護団や与党議員らが再び人間のバリケードを形成して抵抗しましたが、捜査当局はこれを突破。午前8時過ぎには官邸内部への進入に成功し、午前10時33分に逮捕令状の執行を完了しました。

逮捕直前、尹大統領はビデオメッセージを公開し、公捜処の捜査を「不法・無効」としつつも、流血事態を避けるために応じる姿勢を示し、支持者への感謝を述べました。同日午後にはSNSで手紙を公表し、非常戒厳宣布の適法性や不正選挙疑惑の否定といった従来の主張を繰り返しました。

逮捕後、尹大統領は政府果川庁舎内の既存の調査室で取り調べを受けました。取り調べ中、尹大統領は黙秘権を行使し、映像録画を拒否しました。取り調べ終了後、尹大統領はソウル拘置所へ移送されました。当初予定されていた捜査期間より前倒しで、1月26日には検察により起訴されています。

公捜処による一連の捜査・逮捕行為に対しては、権限逸脱や手続きの違法性を指摘する批判も上がっています。この事件は、韓国社会における深い対立を露呈させ、1月から3月にかけて弾劾支持派と反対派の間で激しい議論やデモが頻発する中、弾劾裁判の行方が注目される状況へと発展しました。

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