尾車

尾車（おぐるま）は、大相撲の世界において重要な役割を担う年寄名跡の一つとして、日本相撲協会に公認されています。年寄名跡とは、現役力士が引退後に協会員として協会に残るために取得する必要がある「資格」のようなものであり、親方として後進の指導にあたったり、協会の運営に携わったりするための基盤となります。相撲部屋を興し、師匠として力士の育成に専念する親方も、この年寄名跡を襲名していることが前提となります。

この「尾車」という名跡の起源は、相撲史の黎明期に遡ります。記録によれば、初代としてこの名を名乗った人物は、自らの力士としての登録名、すなわち四股名（しこな）として「小車」、あるいは「尾車」という名前を使用していました。引退後、その四股名がそのまま年寄名跡として引き継がれた形と考えられています。しかし、この「尾車」という四股名や、それが後年名跡として確立されるに至った具体的な由来や背景については、残念ながら現代においては定かになっていません。古来より相撲の世界には数多くの四股名が存在し、その由来には地名や家名、あるいは力士の身体的特徴や取り口、縁起の良い言葉など、様々なものがありますが、「尾車」に関しては、その正確な語源や命名の意図は歴史の中に埋もれてしまっているようです。

年寄名跡としての「尾車」は、初代以降、代々の親方によって継承されてきました。相撲界において、名跡は単なる名前ではなく、その名に宿る歴史や伝統、そして先代たちの築き上げた功績をも受け継ぐものと考えられています。尾車の名跡もまた、様々な力士が引退後に襲名し、親方としてそれぞれの時代に相撲界に貢献してきました。襲名者のリストをたどれば、中には自身の名を冠した相撲部屋を立ち上げ、師匠として多くの弟子を育成し、部屋を運営した部屋持ち親方も存在します。部屋持ち親方となることは、年寄の中でも特に責任と影響力が大きい立場であり、名跡の重みを一層増すことにつながります。これらの代々の親方たちの活動を通じて、「尾車」という名跡は相撲界の歴史の中でその存在感を保ち続けてきました。

相撲部屋は、力士が共同生活を送り、稽古に励む拠点であり、師匠である親方の指導のもと、心技体の向上を目指す場です。尾車名跡を襲名した親方が興した、あるいは関連する相撲部屋として「尾車部屋」が存在しました。相撲部屋の存続や活動内容は時代の変遷や師匠の交代などによって変化しますが、かつて尾車の名跡を継いだ親方によって運営された部屋が存在したことは、この名跡が相撲界、特に力士育成の現場と深く関わってきた証と言えるでしょう。

このように、「尾車」という年寄名跡は、初代の四股名に由来しながらもその起源は不明という神秘性を持ちつつ、相撲協会の根幹を支える年寄制度の一角を占め、代々の襲名者が部屋運営を含む多様な形で相撲界に貢献してきた歴史を持つ、重みのある名前と言えます。その存在は、相撲の伝統と歴史を現代に伝える上で欠かせないものの一つとなっています。

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