居抜き内閣

居抜き内閣とは

居抜き内閣（いぬきないかく）とは、日本の政治において用いられる俗称の一つです。これは、内閣総理大臣が新たに就任する際に行われる組閣において、前任の内閣で閣僚を務めていた人物のほとんど、あるいは全員が引き続き同じポスト、あるいは別のポストで再任される内閣を指して用いられます。

もともと「居抜き」という言葉は、店舗や工場などを引き継ぐ際に、前の経営者や管理者が使用していた設備や備品類をそのまま利用する商慣習を指します。新しい首相が、内閣の「設備」ともいえる閣僚の顔ぶれをほとんど変えずに組閣を行う様子を、この「居抜き」になぞらえて「居抜き内閣」という表現が使われるようになったと考えられます。

定義の曖昧さと事例

「居抜き内閣」はあくまで俗称であり、明確な定義が存在するわけではありません。前内閣からの閣僚の再任がどの程度の割合であれば「居抜き」と見なされるのかについての厳密な基準はありません。

例えば、2020年に成立した菅義偉内閣は、前身である第4次安倍内閣（第2次改造）から、首相となった菅義偉氏を含め11名の閣僚が再任されました。これは当時の全閣僚ポスト数（20ポスト）の過半数程度でしたが、多くの報道機関はこれを「居抜き内閣」あるいは「事実上の居抜き内閣」と表現しました。このことからも、再任閣僚の割合が過半数を超えた場合などに、居抜きと認識される傾向があることがうかがえます。

「居抜き」と呼ばれないケース

内閣総辞職を経て組閣が行われる場合でも、「居抜き内閣」とは通常呼ばれないケースがあります。代表的なのは、衆議院議員総選挙の実施とそれに伴う国会招集による内閣総辞職を経て、同一の人物が再び内閣総理大臣として指名され、組閣を行う場合です。この場合、たとえ前回の内閣と閣僚の顔ぶれが大半同じであっても、総選挙という国民の審判を経た上での再度の組閣であるため、「居抜き」という表現は適切ではないとされています。例えば、第3次池田内閣や第2次岸田内閣などがこれに該当します。

歴史的背景に見る閣僚の継続性

日本の内閣制度が発足した初期の頃には、現在のような内閣総辞職の慣行が確立されておらず、また閣僚には元勲と呼ばれる国家に功績のあった重臣たちが就任することが多かったため、首相が交代しても前内閣の閣僚がそのまま留任するという例が多く見られました。特に、第二代の黒田清隆内閣では、初代伊藤博文内閣の閣僚全員が引き続き閣内に留まるという、現在から見れば極めて珍しい「完全な居抜き」に近い組閣が行われています。

大正から昭和初期にかけての政党内閣期においても、内閣総理大臣が病気や急逝などの予期せぬ理由で退任し、政権の枠組みを維持したまま後継の首相が選ばれた場合には、前内閣の全閣僚が留任するというケースも見られました。

日本国憲法下の議院内閣制においても、前首相が突然の病気などで職務を継続できなくなり退任した場合などには、政治的な混乱を避けるため、後任の首相が前内閣の閣僚の多くを再任する形で組閣を行うことが少なくありません。過去の例としては、自由民主党とその連立政権下で成立した第1次岸内閣、第1次佐藤内閣、第1次森内閣、福田康夫内閣、そして前述の菅義偉内閣などが、いずれも前首相の病気などによる辞任後に成立しており、多くの閣僚が再任されました。

居抜き状態の終焉

「居抜き内閣」として発足した後も、その状態が永続するわけではありません。通常、内閣は一定期間の後に内閣改造を行うことが多く、これにより新たな閣僚が登用され、顔ぶれが刷新されます。また、衆議院議員総選挙を経て再び組閣が行われる場合も、新たな内閣として位置づけられ、「居抜き」状態は解消されることになります。このように、「居抜き内閣」は、政権移行期の一時的な形態として現れることが多いと言えます。

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