屈腱炎

屈腱炎について

屈腱炎（くっけんえん）は、主に競走馬の脚部で発生する病気で、その原因としては腱の一部が断裂することが挙げられます。具体的には、腕節と指骨をつなぐ腱の中の屈腱が影響を受けます。この腱は外側の浅屈腱と内側の深屈腱から構成されており、特に浅屈腱が影響を受けることが多いです。したがって、脚部の腫れや発熱が見られるのが特徴です。

屈腱炎の発症原因は完全には解明されていませんが、反復的な運動負荷が影響することが疑われています。特に、競走馬は訓練のために多くの運動を行うため、そのリスクが高まります。また、削蹄のミスなど不適切な管理も屈腱炎の引き金になることがあります。たとえば、ダービー馬のヒカルイマイがこのような理由で屈腱炎を患った事例もあります。

この疾患が発生すると、治癒までに数か月から数年間を要することが珍しくありません。治治療法としては、患部を冷却し、炎症を抑え、進行が見られる場合には抗炎症剤が投与されます。時には穿刺手術を行い、鬱血や液体除去を図ることもありますが、これもあくまで症状を軽減するためです。再びトレーニングや競走を始めることで再発する可能性が高く、競走能力に深刻な影響を及ぼすことから、この病は「不治の病」とも呼ばれています。

屈腱炎は、特にその外観がエビに似ていることから「エビハラ」や「エビバラ」とも称され、見た目の印象から親しまれています。この疾患が引退の原因になるケースが多く、過去には多くの名馬が屈腱炎を抱えて引退しています。たとえば、ナリタタイシンやビワハヤヒデ、さらにはディープスカイやヒルノダムールなど、有名な競走馬の多くがこの病の影響を受けてきました。

治療方法も近年進化してきました。2000年代以降、幹細胞を利用した治療法が注目されています。この方法では、患部の再生を促進するために、他の部位から取り出した幹細胞を培養し、患部に注入します。しかし、これによって回復するまでの期間は依然として長くかかり、その間にかかる飼育費用は膨大です。また、施術を行うのは大レースでの成功実績がある馬に限られることが多いのも事実です。

かつては、焼きごてを使った治療や、ブリスター療法と呼ばれる手法も行われましたが、現在ではレーザー治療や超音波治療に切り替わっています。これにより、より効果的で副作用の少ない治療が進められています。

屈腱炎は、競走馬にとって非常に重要な問題であり、その治療とリハビリテーションは未だ難しさを伴っています。これを克服する方法が今後の課題として残されているといえるでしょう。

もう一度検索