山ン寺遺跡

山ン寺遺跡は、佐賀県伊万里市東山代町に位置する、14世紀末に成立したと考えられる史跡です。中世の武士団、松浦党の初代・源久、二代・源直、三代・源清を祀る場所と伝えられていますが、発掘調査の結果、平安時代や鎌倉時代の遺物は見つかっておらず、室町時代（14世紀末）に成立したと考えられています。

遺跡の概要

「松浦家世伝」などの史料から、この地は城館跡とされていますが、防御施設である竪堀や切岸といったものが確認されていません。また、遺跡の立地が周囲よりも低く、見下ろされるような場所にあることから、伊万里市教育委員会は、この場所を信仰の対象となる山岳寺院跡ではないかと考えています。

遺跡の土地は、15世紀末まで松浦本宗家（今福家）の所領であり、その造営に関与した可能性はありますが、寺院跡地の広さから、本宗家のみの財力で造営されたかは疑問視されています。出土した陶磁器から、14世紀末には遺跡が存在していたことが確認できますが、同時期に松浦党諸家が一族一揆をしていたことから、諸家も関与した可能性も指摘されています。伊万里市教育委員会は、諸家の財力に応じて出資する方法が取られた可能性も示唆しています。

この遺跡が宗教的施設として機能していた背景には、拡大した一族間の精神的統一や、軍事力や財政力の乏しい諸家の連携強化という目的があったと考えられます。また、松浦三代の宗廟として象徴化することで、これらの効果を高める意図があったでしょう。各家が菩提寺を持つ中で、象徴的な施設を持つことには大きな意味があったと考えられます。

さらに、出土品には輸入された陶磁器が含まれていたことから、この遺跡は単なる山岳寺院としてだけでなく、松浦諸家の海外交易活動にも深く関わっていた可能性が考えられています。

遺構

山ン寺遺跡は、風水の思想を取り入れた特徴的な構造をしています。背後に山祇神社を控え、總持寺、列石、土塁、二つの明堂が配置されています。また、佐世保の烏帽子岳を祖山とする地脈は、福島を案山、唐津の馬渡島を朝山に見立てています。

列石: 人頭大の石（50cm～100cm）を連続して配置し、山祇神社山頂と青龍の地脈を強化しています。
土塁: 山祇神社頂上部から西方高地に向かう土塁は、山頂の生気を高める役割を果たしています。
明堂: 内明堂と外明堂の水は左から右へ流れるように配置され、總持寺境内の両側の谷を左右の明堂水とみなしています。
宗廟遺跡: 松浦党の祖である源久、その子・源直夫妻の墓、源久と清の遥拝墓と伝えられる宝篋印塔があります。また、中世末から近世にかけての五輪塔、宝篋印塔、板碑、地蔵塔、無縫塔、自然石塔などが約100基散在しています。
總持寺: 天正期末に廃絶し、文禄の役の際に破壊されました。現在は、明治期に再建された釈迦堂や江戸後期の鐘楼跡が見られます。釈迦堂内には室町時代の阿弥陀像があります。
山祇神社: 祭神は象樟日神（熊野久須毘命）で、他に熊野十二社権現や松浦三代の祖霊を祀っています。巨石が多数存在します。
寺坊跡: 区画された平坦地が20か所以上あります。

歴史

伝承では、平安時代の久安年間（1145年～1150年）に、松浦党の二代・源直が館を築き、総持寺を創建して初代・源久の霊を祀ったとされてきました。しかし、現存する最も古い石造物は室町時代中期のものであり、発掘調査でも14世紀後半から16世紀前半頃の遺物が多く出土したため、遺跡の始まりは平安時代まで遡らないと考えられています。

出土遺物には、中国、朝鮮半島、東南アジアで製造された陶磁器が多く含まれており、海を舞台に活躍した松浦党の人々が持ち込んだものと推測されています。これは、山ン寺遺跡が松浦党にとって重要な宗教遺跡であったことを示唆しています。

山ン寺の伝承

山ン寺の伝承は、松浦家世伝や御厨公伝、波多系図など、多くの資料に記録されています。これらの資料を総合すると、以下のようになります。

松浦党の祖である源久は、平安後期の延久元年（1069年）に宇野御厨荘の検校・検非違使として松浦に下向し、梶谷城を築きました。その所領は広範囲に及び、九州西北海上に強固な基礎を築きました。

源直の夫人は、夫を山内に葬り、総持寺を菩提寺として生涯、父と夫の霊を弔いました。直の侍女たちは剃髪し、夫人に従いました。総持寺は真言密教寺院であり、荘内各地に末寺がありました。そのため、末寺を統括する本寺として総持寺と呼ばれました。

鎌倉初期には、直の六男である囲が山代浦の地頭に補任され、飯盛城を所領しました。囲から十二代目の子孫である山代虎王丸は、天正4年（1576年）に龍造寺隆信に飯盛城を攻め落とされ、山ン寺砦に退いて抗戦しましたが、最終的に降伏しました。

虎王丸は、天正15年（1587年）に豊臣秀吉の命で鍋島直茂に仕え、その後、山代東部を召し上げられ、長島庄芦原に移されました。一方、山代郷西部には、一族の山代六郎左衛門をはじめとする家臣が残留しました。山代東部には、天正17年、田尻鑑種が入部しました。

総持寺は山代家の庇護を失い、混乱したため、不鉄という人物が復興に尽力しました。不鉄は、文禄の役の際に、秀吉の命令に背き、寺鐘の供出や僧侶の従軍を拒否したため、秀吉の怒りを買い、総持寺は取り潰されました。不鉄は有田唐船城に身を隠し、寺鐘は名護屋に運ばれる途中で沈没したと伝えられています。

慶長3年（1598年）、秀吉が死去すると、山代の庶民たちは山寺の復興を志し、山祇神社の焼跡に祠堂を再建しました。その後、山祇神社は東西松浦郷の氏神として崇められ、再び真言密教の巡拝地となりました。

寛政初年（1748年）には、海老庵澄江という禅僧が山ン寺の廃墟を訪れ、旧総持寺本堂跡に釈迦堂を建てました。その後、川内野部落の人々によって寺鐘と鐘楼が寄進されましたが、この鐘は大東亜戦争中に供出されました。

山祇神社の大祭

山祇神社の大祭は、慶長以降、毎年12月1日に行われており、山代家遺臣の子孫たちによって代々受け継がれてきました。祭日には、芦原鍋島家や有田鍋島家が西有田広厳寺の住持を派遣して祭事を主管させ、同系修験道の授戒道場であった黒髪神社からも法印が参加しました。また、地元の青幡神社の神官や付属の修験僧も参加し、神仏両道が混然一体となった祭祀が行われました。明治時代には神仏分離令によって、神祭一本となりましたが、その独特な祭祀形態は長く受け継がれました。

山祇神社に対する松浦党の子孫たちの意識は非常に強く、現在でも大祭には、源太夫判官久、源四郎太夫直、源二郎清を大祖とする上・下松浦党の後裔たちが数千人規模で参拝に訪れます。

構成資産

現存するもの

源久の墓
源直夫妻の墓
源清の墓
山祇神社
釈迦堂
方角の池
千人塚
磐座
500m列石
階段式溜池
石庭
天正石地蔵
山ン寺塔
織部風板碑

現存しないもの

鹿防跡
大館邸跡
総持寺跡
鐘撞き跡
納経塔

出土品

青磁（香炉、碗、瓶、皿）
白磁（細脛壺、皿、碗）
朝鮮陶磁
褐釉陶（南蛮類）
青花（染付）
土師器
挽臼
開元通賽（唐銭）/元符通賽（北栄銭）

出典

『山ン寺遺跡　調査概報』佐賀県伊万里市教育委員会、1983年3月。
『東山代町史』東山代町史編纂委員会、2019年12月。
『松浦源氏創世記遺跡　山ン寺調査報告書』伊万里市教育委員会、1969年10月。

外部リンク

山ン寺遺跡/伊万里市

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