田尻鑑種

田尻鑑種：激動の時代を生き抜いた筑後の武将

田尻鑑種（たじり あきたね）は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、筑後国（現在の福岡県南部）の有力国人である田尻氏の当主であり、鷹尾城を居城としていました。その生涯は、当時の激しい勢力争いに翻弄され、主家を転々としながらも、最終的には鍋島氏に仕え、朝鮮の役で病没するという波乱に満ちたものでした。

大友氏から龍造寺氏へ

鑑種は、初め豊後国（現在の大分県）の大名・大友氏に仕え、その当主・大友義鑑から偏諱を与えられるなど、重用されていました。しかし、大友氏が耳川の戦い（1578年）で島津氏に大敗すると、その勢力が衰退したのを見て、鑑種は翌1579年に肥前国（現在の佐賀県・長崎県）の龍造寺隆信に臣従しました。

龍造寺氏のもとでは、三池鎮実攻めや肥後国（現在の熊本県）の筒岳城攻めなどで武功を挙げ、その勇名を轟かせました。また、1581年には隆信の命により、縁戚関係にあった蒲池氏の柳川城を攻め落とし、一族郎党を討ち滅ぼしたことで、隆信から広大な新領地を与えられました。

島津氏との接近と謀反

龍造寺氏の勢力が拡大する中、島津義弘は、筑後で最も有力になった田尻鑑種に接近し、肥後八代の支配を依頼しました。鑑種はこれに応じ、島津氏に接近しますが、これは後に龍造寺氏との対立を招くことになります。

1582年、龍造寺政家と鍋島信生が瀬高上ノ庄へ鵜飼見物に出かけた際、鑑種と蒲池家恒を呼び寄せ討ち果たす計画があるという噂が立ちました。蒲池家恒は弁明に努めましたが、島津氏との関係を隠していた鑑種は弁明せず、同年10月に龍造寺氏に対し謀反を起こしました。

鑑種は、居城の鷹尾城に籠城し、江ノ浦城、濱田城、津留城、堀切城などの支城にも親族を配置して徹底抗戦の構えを見せました。また、大友氏と島津義久に援軍を要請し、大友氏の援軍は実現しませんでしたが、島津義久は帖佐宗光らを派遣し、鷹尾城に籠る鑑種を支援しました。

和睦と龍造寺氏への復帰

各城が堅牢であったことに加え、龍造寺勢も本格的な攻撃を控えたため、膠着状態が続きました。1583年7月には、秋月種実の仲介により和睦が試みられましたが、条件が折り合わず破談となりました。その後も龍造寺勢による城攻めは失敗に終わり、多くの戦死者を出すこととなりました。

鍋島信生は、江ノ浦城主の田尻了哲と親交のあった百武賢兼を通じて了哲との和睦に成功し、その了哲の仲介で鑑種も龍造寺氏との和睦に応じました。1583年12月、田尻一族が龍造寺政家に起請文を提出し、鷹尾城を明け渡す代わりに佐賀郡への移住と200町の新地が与えられることで和睦が成立し、鑑種は龍造寺氏の家臣に復帰しました。

龍造寺氏の重臣として

沖田畷の戦い（1584年）で龍造寺氏が勢力を弱めた際、大友氏が筑後に侵攻してきた際には、龍造寺軍の先鋒として筑後に出撃し、かつての居城であった鷹尾城を奪還しました。しかし、この後も島津氏への臣従を匂わせる手紙を送るなど、鑑種の島津氏への傾倒は続いていたようです。

龍造寺氏も鑑種の度重なる裏切りを警戒し、多くの起請文を発行していました。しかし、龍造寺氏と島津氏が和議を結ぶと、龍造寺家臣でありながら島津氏と親交のある鑑種の立場は微妙なものとなりました。

龍造寺氏は、裏切り行為はあったものの、和睦した島津氏と親しい鑑種を罰することなく、引き続き家臣として重用しました。鑑種もこれを受け入れ、最終的には龍造寺氏に完全服従する決意を固めたようです。豊臣秀吉による九州征伐が終わる頃には、鑑種は秀吉に拝謁することなく、鍋島直茂の麾下となり、その後の朝鮮の役で病没しました。

異説

島津氏の史料である『本藩人物誌』には、上記のような和睦の後に、鑑種が100名余りの家臣を率いて龍造寺隆信に会う途中で、龍造寺方の伏兵により討ち取られたとする異説が記載されています。また、その子である喜平次も殺されかけたものの、隆信の母である慶誾尼によって助命され、僧になった後、還俗して大友氏に仕え、後に島津義弘に仕えたとも記されています。しかし、鑑種が朝鮮の役で活躍したとする複数の資料が存在するため、この説の信憑性は低いとされています。

まとめ

田尻鑑種は、戦国時代末期から安土桃山時代にかけて、激しい勢力争いの中で主家を転々としながらも、その武勇と知略で名を馳せた武将でした。大友氏、龍造寺氏、島津氏といった有力大名の間で揺れ動きながらも、最終的には鍋島氏に忠誠を誓い、その生涯を終えました。その波乱に満ちた人生は、戦国時代の複雑な情勢を象徴するものであり、現代においても多くの人々の関心を惹きつけています。


参考文献

『北肥戦誌（九州治乱記）』（青潮社刊）

関連書籍

佐野量幸「筑後水滸伝」『福岡戦国武将物語(中)』光山製作所

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