山上武夫

山上武夫（やまがみ たけお）

日本の童謡作詞家。1917年（大正6年）2月8日、長野県埴科郡松代町（現在の長野市松代町）に生まれ、1987年（昭和62年）11月2日に70歳でその生涯を閉じた。

人物と経歴

山上武夫の生家は骨董商を営んでおり、彼が育った信州松代は、かつて真田松代藩の城下町として栄え、骨董品が集まる文化的な香りの高い土地だった。また、佐久間象山をはじめとする歴史上の人物を多く輩出しており、教育や文化への関心が高い地域であった。この地からは、山上以外にも草川信、海沼實、坂口淳といった童謡・唱歌分野の才能が生まれ、近隣には中山晋平や高野辰之といった大家もいた。

郷里の先輩にあたる草川信や海沼實の活躍に触発された山上は、詩作への道を志し、17歳で姉を頼って上京する。1936年（昭和11年）には、NHKが行った童謡の募集で「つららの兵隊」と「この道ほそ道」が入選を果たし、作詞家としての才能が認められる。翌1937年（昭和12年）、20歳になった時に、草川信が作曲した「この道ほそ道」がラジオで放送される。この頃、草川信の自宅を訪ねた山上は、偶然にも当時音羽ゆりかご会を設立したばかりの海沼實と出会った。この運命的な出会いを機に、山上は海沼實と共に歩むこととなる。

山上は自伝の中で、海沼とは同郷であったこともあり、常に寄り添うように歩みを進めた結果、喜びも悲しみも共有し、多くの思い出を分かち合ったと振り返っている。海沼との師弟関係は生涯変わることがなかった。二人のコンビによる楽曲は数多く、1969年（昭和44年）には「うまれたきょうだい11にん」が第11回日本レコード大賞童謡賞を受賞し、新たな展開が期待された。しかし、そのわずか2年後の1971年（昭和46年）、盟友であり師でもあった海沼は世を去り、山上はその訃報に接することとなった。

上京後の経歴を詳細に見ると、1938年（昭和13年）5月には自ら童謡雑誌『ゆずの木』を創刊するなど、精力的に活動を展開する。同年9月には、海沼實の作曲による代表作の一つ「お猿のかごや」を発表。この曲は翌1939年（昭和14年）にビクターからレコード化され、広く親しまれるようになる。1945年（昭和20年）秋には、戦後の混乱期に故郷松代へ帰郷していた山上によって、同じく海沼實の作曲による「見てござる」が書かれた。この曲は、当時他に広く歌われる童謡が少なかったこともあり、この年を代表する童謡とされている。終戦後、山上はいったん再上京を考えるものの断念し、故郷で書店を営みながら詩作活動を続けた。晩年の1969年には「うまれたきょうだい11にん」での受賞があり、童謡作詞家としての功績が改めて評価された。

主な作品

山上武夫は生涯にわたり多くの童謡を発表したが、中でも海沼實とのコンビによる作品が著名である。

お猿のかごや（海沼實作曲）：現代でも多くの人に知られている童謡。そのメロディーや歌い出しの掛け声「エーッサ エッサ エッサホイ サッサ」などが、比喩表現としても使われるほど浸透している。この歌には、山上が書いた原詩と、それを海沼が作曲にあたりリズムを考慮して改変した現行の歌詞が存在する。山上の回想によれば、詩の着想は、故郷松代の赤い夕焼けを見ていた時に、地元の山道で猿がかごを担ぐ情景が浮かんだことから生まれたという。歌の中の「小田原提灯」から箱根山中を舞台と想像する向きもあるが、作者のインスピレーションは故郷の風景にあった。

見てござる（海沼實作曲）：戦後間もない1945年秋、故郷松代にいた山上は、NHKから子どもたちの気持ちを明るくする童謡の依頼を受ける。ラジオから流れる大雨注意報を聞いていた時、彼の脳裏には千曲川の荒々しい流れではなく、少年時代に遊んだ穏やかな故郷の田園風景が鮮やかに広がったという。秋風になびく稲穂、田んぼに立つ案山子、そして真田家の菩提寺である長国寺付近の情景。その景色の中、古寺の境内に立つ地蔵尊が、いつも子どもたちを優しく見守っていた記憶が蘇り、「見てござる」という言葉が浮かんだ瞬間、この童謡の詩が完成したと語っている。

その他にも、「欲しがりません 勝つまでは」「あしたもお天気」「ありがとう幼稚園」「すすきの丘」「ねんねをすれば」「松代小学校校歌」「お肩をタントン」「さいたはなちったはな」「みどりの地球」など、多様な作品を残している。

歌碑

故郷である長野市松代町には、山上の功績を記念する歌碑が建立されている。梅翁院には「見てござる」の歌碑があり、法泉寺の境内には「お猿のかごや」の詩碑が二基存在する。一つは改変前の原詩が刻まれたもので、もう一つは楽譜と共に改変後の歌詞が記された歌碑である。これは、この代表作における海沼實との共同作業の軌跡を今に伝えている。

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