山下智茂

山下 智茂（やました ともしげ）は、1945年2月25日生まれの日本の高校野球指導者です。長きにわたり石川県の星稜高等学校野球部監督を務め、同校を全国屈指の強豪校へと育て上げました。現在は星稜高校野球部名誉監督をはじめ、学校法人稲置学園理事、金沢星稜大学特任教授、甲子園歴史館顧問などを務めています。

石川県立門前高等学校を卒業後、東都大学野球リーグの名門である駒澤大学に進学しましたが、選手としては公式戦に出場する機会は得られませんでした。大学卒業後の1967年4月、星稜高校野球部監督に就任します。

監督就任当時の星稜高校野球部は、決して強豪とは言えない状況でした。専用のグラウンドはなく、部員はわずか8人。生徒たちの中には、必ずしも強い意志を持って入学したわけではない者も少なくありませんでした。このような環境の中、山下氏は「3年で甲子園へ行く」と宣言し、学校に夢や誇りを持たせることから指導を始めました。

彼の指導理念の根幹には「野球が教育のフィールドから逸脱してはならない」という信念がありました。学業をおろそかにする生徒には練習参加を禁じるなど、野球を通じて人間的な成長を促す厳しい姿勢を貫きました。一方で、県内の遠隔地から通学する生徒には自宅を開放して下宿を提供するなど、選手たちの生活面まで細やかに配慮し、レギュラー、控え選手、マネージャー分け隔てなく指導にあたったといいます。

監督就任からわずか3年後の1970年には北陸大会で準優勝を果たし、着実に力をつけていきました。そして、就任5年目の1972年に初めて夏の甲子園に出場。これを皮切りに、星稜高校は春・夏合わせて甲子園に合計25回出場するという輝かしい実績を積み重ねていきます。通算成績は22勝25敗ですが、1995年夏には山本省吾投手を擁して決勝に進出し、準優勝という北陸勢としては福井商業に次ぐ最高成績を残しました。また、1979年の箕島高校との延長18回の激闘や、1992年の松井秀喜選手に対する5打席連続敬遠など、高校野球史に刻まれる数々の名勝負を経験しています。

技術指導においては、卓越したノック技術を持つことでも知られ、「マシンガンノック」の異名を取りました。甲子園での試合前に行われる山下氏のノックは、多くのファンにとって名物の一つとなっていました。しかし、単に技術を教えるだけでなく、人間教育に重点を置いた指導は、現在でも多くの高校野球指導者から目標とされています。

長年の監督生活を経て、2005年9月1日をもって監督を退任しました。監督として全国優勝を達成した際に禁煙を解くことを望んでいましたが、その夢は叶いませんでした。退任後も高校野球界との関わりは深く、星稜高校の野球部名誉監督に就任。また、甲子園大会期間中には民放テレビ局の野球解説者としても活躍しています。特に、箕島高校を率いた故・尾藤公監督とは、現役時代からのライバルでありながらも深い親交があり、解説者として共演する機会もありました。尾藤氏の後任として甲子園歴史館の顧問も務めています。近年では、自身の母校である石川県立門前高等学校の野球指導アドバイザーとして後進の指導にあたるなど、精力的に活動を続けています。

教育者としての功績も認められ、2003年には日本高野連より育成功労賞（当時はイヤーオブザコーチ賞）が贈られました。彼の指導哲学を示す座右の銘は「花よりも花を咲かせる土になれ」です。長男の山下智将氏も星稜高校野球部OBであり、指導者として経験を積んだ後、2023年から星稜高校野球部の監督に就任しています。

山下智茂氏は、弱小チームを強豪へと導いた卓越した指導力と、野球を通じて人間形成を目指した教育者としての姿勢により、日本の高校野球界に多大な影響を与え続けています。

もう一度検索