山中散生

山中散生：日本のシュルレアリスムを牽引した詩人

山中散生（やまなか ちるう、1905年5月7日-1977年9月11日）は、20世紀前半を代表する日本の詩人であり、フランス文学者です。本名は山中利行。愛知県名古屋市に生まれ、名古屋高等商業学校在学中は象徴派詩誌『青騎士』に参加するなど、若くから文筆活動に携わっていました。卒業後はNHK東海支部に勤務しながらも、詩作を続け、独自の道を歩んでいきます。

1929年、冨士原清一氏から贈られた雑誌『衣裳の太陽』をきっかけに、シュルレアリスムに傾倒。同年、自身で雑誌『Ciné』を創刊し、シュルレアリスム運動の中心に深く関わっていくことになります。

山中散生のシュルレアリスムへの関与は、単なる受動的なものではありませんでした。彼は、フランスのシュルレアリスムの中核を担う詩人ポール・エリュアールと文通を始め、その交流はアンドレ・ブルトン、トリスタン・ツァラ、ジョルジュ・ユニエ、ルネ・シャール、マン・レイ、サルヴァドール・ダリ、ハンス・ベルメールといった錚々たるメンバーにまで広がっていきました。

これらの交流を通じて、山中散生は精力的に彼らの作品を『詩と詩論』『文藝汎論』『マダム・ブランシュ』『Vou』『Cendre』といった雑誌で紹介、発表しました。同時に、美術誌『みずゑ』『アトリエ』においても、シュルレアリスム派の画家たちの作品を紹介するなど、多方面からシュルレアリスムの普及に貢献しました。

その活動の成果として、1934年にはエリュアールへのオマージュ『HOMMAGE A PAUL ELUARD』を編集。さらに、ブルトン、エリュアールらと共同で企画した『L’ÉCHANGE SURRÉALISTE』（1936年）を刊行するなど、国際的なシュルレアリスム運動に積極的に参加しました。

最も重要な活動の一つとして、1937年にはブルトン、エリュアール、ユニエらの協力を得て、瀧口修造とともに「海外超現実主義作品展」を東京で開催。その後、京都、大阪、名古屋、福井を巡回し、若い世代の画家たちに大きな影響を与えました。約370点の実物作品や写真複製が展示されたこの展覧会は、日本における本格的なシュルレアリスム展覧会の第一号として歴史に刻まれています。

太平洋戦争後も、山中散生は『詩学』『現代詩』などの雑誌で詩を発表し続けました。1938年にはフランスの『シュルレアリスム簡約辞典』に、瀧口修造、瀧口綾子、下郷羊雄、大塚耕二、岡本太郎らとともに名を連ねています。

山中散生の詩作は、初期には七五調の作品も見られますが、独特の諧謔と奇抜な発想が特徴です。瀧口修造とともに、戦前の日本におけるシュルレアリスム運動の中心人物として、その運動のオルガナイザーとしての役割も担っていました。

彼の多大な貢献は、単なる翻訳や紹介にとどまらず、実際にシュルレアリスム運動を日本に根付かせ、発展させる原動力となりました。数多くの詩集やシュルレアリスム関連の著作、そして翻訳作品を残し、その功績は、日本の文学史、美術史に大きな足跡を残しています。彼の活動は、現代においても、シュルレアリスムや前衛芸術を理解する上で、重要な指針となるでしょう。

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