山内俊雄

山内 俊雄（やまうち としお）氏は、1937年1月19日に長野県松本市で生まれた、日本の著名な医師であり、埼玉医科大学名誉学長です。神経生理学および精神医学を専門とし、特にてんかんに関する研究と臨床、そして性同一性障害に対する医療の発展に多大な貢献をしてきました。

経歴と研究活動

山内氏は、1955年に長野県松本県ヶ丘高等学校を卒業後、1963年に北海道大学医学部を卒業しました。さらに、1968年には北海道大学大学院医学研究科にて神経生理学を修了し、医学博士号を取得しています。大学院での学びを経て、精神科医としての道を志すことになります。

北海道大学においては、1976年に講師、1979年には助教授を務め、研究教育に従事しました。その間、1977年から1979年にかけては、アメリカ合衆国の国立衛生研究所（National Institutes of Health, NIH）にVisiting Scientistとして招聘され、てんかん発作の発現メカニズムに関する最先端の研究に深く携わりました。この国際的な研究経験は、その後の山内氏の研究活動に大きな影響を与えました。

埼玉医科大学での貢献

1986年、山内氏は埼玉医科大学に移籍し、精神医学講座の教授に就任しました。埼玉医科大学での活動は、氏のキャリアの中でも特に重要な時期となります。

性別適合手術の実現

山内氏の特筆すべき功績の一つに、日本における性別適合手術（性転換治療）の実現への貢献があります。1995年、埼玉医科大学の倫理委員長を務めていた際、「性転換治療の臨床的研究」に関する倫理性の審査申請を受けました。山内氏は、このテーマについて一年間にわたり集中的に学習と検討を重ね、1996年7月2日に倫理委員会として慎重な答申を提出しました。そして、1998年10月16日には、埼玉医科大学総合医療センターにおいて実施された日本初の公的な場での性別適合手術が実現するよう、その道を切り開いたのです。これは、性同一性障害を持つ人々の人権と医療に対する日本の理解を大きく前進させる画期的な出来事でした。

大学運営における役割

埼玉医科大学においては、研究教育に加え、大学運営にも深く関わりました。1998年には副学長、2004年には学長に就任し、大学の発展に尽力しました。2011年8月1日には名誉学長の称号を授与されています。

専門医資格と学会活動

山内氏は、日本てんかん学会専門医および日本精神神経学会専門医の資格を有しています。特に日本精神神経学会では前理事長を務めるなど、学会活動を通じて日本の精神医学の発展と普及に貢献してきました。

著書と出版物

専門分野における豊富な知識と経験は、多くの著作としても結実しています。てんかんや性同一性障害に関する専門書から一般向けの啓蒙書まで、幅広い読者に向けて情報を発信しています。

主な著書には以下のようなものがあります。

『やさしいてんかん学』(1993年)
『性転換手術は許されるのか 性同一性障害と性のあり方』(1999年)
『性の境界 からだの性とこころの性』(2000年)
『やさしいてんかんの本 キーワードから読み解く』(2009年)

また、多くの共編著や翻訳書も手掛けており、学術界における多角的な貢献を示しています。

受章

長年にわたる医学研究、教育、そして精神医療分野への貢献が認められ、2019年には瑞宝中綬章を受章しました。

山内俊雄氏は、神経生理学、精神医学、てんかん研究における第一人者として、また性別適合手術という画期的な医療の実現に尽力した人物として、日本の精神医療史にその名を刻んでいます。その活動は、研究者、教育者、そして臨床家として多岐にわたり、現代の精神医療が直面する課題に対しても重要な示唆を与え続けています。

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