山口吉郎兵衛

山口吉郎兵衛（やまぐちきちろべえ）は、大阪の山口財閥の当主が代々襲名した名前です。その歴史は、江戸時代中期に奈良の農家から始まった竹販売に遡ります。ここでは、初代から四代にわたる山口吉郎兵衛の足跡を辿ります。

初代吉郎兵衛

山口吉郎兵衛家の先祖は、江戸時代中期まで奈良の山口村（現在の葛城市）で農業を営んでいました。寛政年間（1790年代）に半七が竹の販売を始め、屋号を竹屋としました。半七の子である半六郎は、安永2年（1773年）に大阪伏見町の呉服商に奉公した後、天明6年（1786年）に独立して呉服の行商を開始しました。その次男である久吉郎が「布屋吉郎兵衛政道」と名乗り、文政7年（1824年）に分家して唐反物商を始め、布屋の事業の基礎を築き、吉郎兵衛家（三代目より山口姓を使用）の初代となりました。

二代目吉郎兵衛

初代の養子である二代目吉郎兵衛は、布屋吉郎兵衛政樹と名乗りました。文政2年（1819年）に生まれ、義兄にあたる初代の養子となりました。彼は、舶来反物商布屋を継ぎ、安政3年（1856年）から長崎で外国商人と直接取引を行い、嘉永4年（1851年）には江戸に支店を出し事業を拡大しました。しかし、幕末に尊皇攘夷派による貿易商への脅迫が始まったことから、文久3年（1863年）に輸入業を廃業し、布屋両替店（大阪第百四十八国立銀行の前身）に業務を転換しました。明治4年（1871年）に亡くなりました。本姓は古山でした。娘の陸は芝川又衛門と、とめは山口仁兵衛（旧姓藤井）と結婚しました。また、寿賀は山口楢三郎と結婚しました。

三代目山口吉郎兵衛

二代目の長男である好三郎は、嘉永4年（1851年）に生まれ、三代吉郎兵衛政運を名乗り、この時から山口姓を称するようになりました。家督を継いだ時、彼はまだ20歳の若年であったため、義兄である山口楢三郎と山口仁兵衛、番頭の西田永助、越野嘉助らの合議によって経営が行われ、明治維新後の経済混乱期を乗り切りました。明治9年の国立銀行条例の改正を機に、明治12年（1879年）に大阪第百四十八国立銀行を設立し、三代吉郎兵衛が初代頭取となりました。明治20年（1887年）に亡くなったため、山口仁兵衛が頭取に就任し、銀行は順調に発展しました。

四代目山口吉郎兵衛

四代吉郎兵衛は、明治16年（1883年）4月25日に三代目の次男として生まれました。明治20年（1887年）12月には、わずか4歳で正七位に叙されています。これは、父である三代吉郎兵衛の第百四十八国立銀行の経営に対する恩賞として、彼の死去に際して長男に与えられたものです。

青年期は病弱であったようで、明治32年（1899年）に山口銀行の総理事に就任した町田忠治は、病弱な吉郎兵衛が銀行事務見習いなどをせず、養生するよう忠告しました。吉郎兵衛は間もなく回復しましたが、若い時に病弱であったために山口財閥の成立後も、企業の重役として名前を連ねたものの、経営の実務は有能な番頭たちに任せ、自らは風流な趣味を楽しみました。

明治31年（1898年）7月に「営業満期国立銀行処分法案」が可決され、父の三代吉郎兵衛が明治12年（1879年）に設立した第百四十八国立銀行が満期になると、これを継承して資本金を全額出資し、個人銀行の山口銀行を設立し、16歳で頭取に就任しました。その後、慶應義塾を卒業し、町田忠治と共にアメリカなどを訪問しました。大正6年（1917年）5月に組織を変更して株式会社の山口銀行になると同時に取締役社長に就任しました。また、山口銀行の傘下にあった大阪貯蓄銀行の取締役、頭取に就任し、大正8年（1919年）2月には日本生命保険の取締役会長に就任しています。さらに山口財閥の事業網が拡大するとともに、大日本火災海上再保険の取締役を務め、関西信託の取締役、尼崎共立銀行の頭取にも就任しました。

彼は美術品蒐集家としても知られ、カルタ、人形、陶磁器のコレクションを買い求めました。また、昭和4年（1929年）には芦屋に豪壮な本邸が建築されました。第二次世界大戦後、この本邸とコレクションを基礎にして財団法人滴翠美術館が設立されました。

吉郎兵衛は個人財産で多くの寄付を行い、それに見合う名誉を得ました。海防費、生国帰魂神社建築費、恩賜財団済生会、明治神宮奉賛会、大阪医科大学新築費などに寄付を行いました。また、日仏文化協会に寄付をして、フランス政府から勲章を受けています。社会活動としては、恩賜財団済生会、財団法人報効会、日本経済連盟の各評議員、日本赤十字社の商議員などを務めました。米騒動や関東大震災の際には義援金を寄付し、明治20年（1887年）から昭和期にいたる間の寄付額は、38万6000円に達しています。山口吉郎兵衛は昭和25年（1950年）9月に山口合資会社を解散した後、昭和26年（1951年）10月2日に亡くなりました。

娘婿に辰馬本家酒造の辰馬吉男がいます。

栄典

1887年（明治20年）12月24日 - 正七位
1887年（明治20年）12月27日 - 銀製黄綬褒章

山口吉郎兵衛