山寺喜成

山寺 喜成

（やまでら よしなり　1938年 - ）

日本の林学者、農学博士。専門は緑化工学、自然修復再生学、森林保全学、森林科学、治山砂防学。

生い立ちと学歴、初期のキャリア

1938年に生まれた山寺喜成氏は、高校卒業後、長野県辰野町で農林業の実務に携わる経験を積みました（1956年～1959年）。この初期の経験が、後の研究活動の基盤となったと考えられます。大学での学びを経て、1963年から1965年にかけては長野県庁林務部治山課にて技師として勤務し、行政の立場から治山事業に関わりました。

教育・研究機関での活動

山寺氏はその後、教育・研究の世界へと活動の場を移します。非常に多くの教育機関で教鞭を執った点が特筆されます。東京農業大学では助教授（1978年～1993年）として治山・緑化工学の研究と教育に従事しました。また、富山県立大学（1974年～2008年）、東京農工大学（1972年～1998年）、東京大学大学院（1988年～1998年）、九州大学（2001年）、放送大学（2005年～2007年）など、各地の大学で長期間または短期間、非常勤講師として緑化工学や関連分野を教えました。特に、東京大学大学院では砂防造林学・環境緑化工学を、九州大学では森林環境工学を担当するなど、幅広い教育に貢献しています。

1994年からは信州大学農学部で教授を務め（～2003年）、森林科学、緑化工学、森林機能学、砂防学といった多岐にわたる分野で研究室を主宰しました。教授職退任後も、信州大学農学部特任教授として（2005年～2008年）、緑化工学や自然修復再生学の研究・教育に貢献を続けました。さらに、早稲田大学理工学部では客員研究員（1992年～1998年）としても活動しています。

主要研究分野と国際貢献

山寺氏の主要な研究テーマは、自然環境、特に荒廃地の維持・保全・修復・再生に関する実証的研究です。これは、単なる理論に留まらず、現場での具体的な技術開発と効果検証を重視する姿勢を示しています。

具体的な研究対象としては、急勾配斜面等の荒廃地に対する播種工を用いた早期樹林化の研究があります。この研究は、日本国内だけでなく、ネパールや中国といった海外でも実施され、厳しい条件下での緑化技術の確立に貢献しました。また、砂漠などの乾燥地における植生再生も重要な研究テーマであり、アフリカ、中国、モンゴルといった乾燥地域での実証研究を通じて、地球規模での砂漠化対策にも尽力しました。

社会貢献と著書

研究活動と並行して、山寺氏は様々な公的機関の委員や委員長として、緑化・治山に関する政策や技術基準の策定に深く関わりました。環境庁では「自然公園における法面緑化基準の解説」（1982年）や「自然公園における採石跡地の続化復元対策指導指針」（1989年）、環境省では「自然公園における法面緑化指針検討委員会」（2005年～2007年）で委員長を務め、自然景観保全に配慮した緑化のあり方を示しました。道路緑化保全協会では「荒廃地に対する植生復元の技術指針」（1986年）、建設省では「道路法面再緑化の事業手引き」（1996年）の委員長として、実務的な技術指針を整備しました。また、外務省のプロジェクトとして「ネパールの道路建設に伴う防災緑化技術の実証的研究」（1998年）では総括を務め、海外での技術協力にも貢献しています。

学術分野では、日本学術会議の森林工学研連委員（1994年～1997年）として、関連分野の発展にも寄与しました。

これらの研究や社会貢献の成果は、多くの著書としても結実しています。「自然環境を再生する緑の設計」（1993年、編著）など国内での著作に加え、中国科学技術出版社からの「恢復自然環境緑化行程概論」（1997年）、内蒙古大学出版社からの「植被恢復技術指南」（1991年）など、海外でも著作を出版しており、その研究成果が国際的にも広く共有されていることがわかります。

受賞

長年にわたる教育、研究、社会貢献の功績に対し、多くの賞が贈られています。日本林学会賞（1992年）、日本緑化工学会賞（2000年）は、それぞれの分野における学術的な貢献が高く評価されたことを示しています。さらに、環境保全功労賞（環境大臣、2009年）は、長年の活動が環境保全に大きく寄与したことが国によって認められたものです。

山寺喜成氏は、林学者として荒廃地緑化・自然再生技術の実証研究に国内外で取り組み、教育者として多くの後進を育て、行政や学会の活動を通じて関連分野の発展と社会実装に貢献した、日本の緑化工学・自然修復再生学における重要な人物の一人です。

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