山崎文男

山崎文男（やまざき ふみお）

山崎文男は、1907年（明治40年）に東京で生まれ、1981年（昭和56年）に74歳で亡くなった日本の原子核物理学者です。放射線測定の分野で先駆的な役割を果たし、日本アイソトープ協会の創設者としても知られています。

生い立ちと学歴

地理学者の父・山崎直方と童話作家の母・水田光子の次男として生まれました。1931年（昭和6年）には東京帝国大学理学部物理学科を卒業し、その後、北海道大学理学部の中谷教室で研究に携わりました。

理化学研究所での研究

1935年（昭和10年）に理化学研究所の仁科研究室に入室し、放射線研究を始めました。1945年（昭和20年）には、広島への原子爆弾投下後、理化学研究所の調査団に参加し、残留放射線の調査を行いました。この調査は、原爆投下からわずか24日後に行われたもので、山崎の放射線測定における高い専門性が活かされました。

1951年（昭和26年）には、アメリカ合衆国オークリッジで放射性同位体の取り扱いに関する研修を受けました。放射性炭素年代測定法を開発したウィラード・リビー博士から、屏蔽計数管について学びました。帰国後、山崎は放射性医薬品の製造・管理・頒布を目的として日本アイソトープ協会を設立し、その後30年間、同協会の常任理事を務めました。

1952年（昭和27年）には、理化学研究所で再建された26インチサイクロトロンを主宰し、仁科芳雄の後を継いで「山崎研究室」を立ち上げました。この研究室は後に「放射能研究室」、「放射線研究室」と名称を変え、山崎は商用放射線測定器の開発にも尽力しました。

ビキニ事件と放射線研究

1954年（昭和29年）のビキニ事件では、第五福竜丸の残留放射線検査を行い、その後の日米放射能会議にも委員として参加しました。この事件をきっかけに、山崎は放射線安全に関する研究にも深く関わるようになりました。1956年（昭和31年）には、理化学研究所に「放射線計画研究室」と「宇宙線研究室」を立ち上げ、1962年（昭和37年）には熊谷寛夫博士と共に「サイクロトロン研究室」を設立しました。

その後の活動と晩年

1965年（昭和40年）には藍綬褒章を受章し、1968年（昭和43年）には理化学研究所を退職し、名誉研究員となりました。その後は日本原子力研究所の理事として環境安全研究の体系化に貢献しました。1977年（昭和52年）には勲三等旭日中綬章を受章し、1980年（昭和55年）には放射線安全技術センターの理事長に就任しました。

山崎文男は、日本の放射線研究の草分け的存在であり、その業績は多岐にわたります。彼の研究は、日本の原子核物理学の発展に大きく貢献し、放射線安全技術の確立にも重要な役割を果たしました。1981年（昭和56年）、アイソトープ協会での会議中に急逝しましたが、その遺志は後世に受け継がれています。

著述と共同論文

山崎は、数多くの論文や著述を発表しており、その一部を以下に示します。

『原子爆弾後、広島西方に残った放射能について』
『放射能計測』
『人骨中のアルファ放射体の定量』
『食品と人体中の自然のアルファ放射体の測定』
「This is the birthplace of radioisotopes in Japan.」

また、以下の共同論文も発表しています。

坂田君子『ローリッツェン型検電器による放射性同位元素の測定』
筧弘毅『第五福龍丸の乘組員はどれだけ放射線をうけたか』
浜田達二、岡野眞治『同時放電法による放射能絶対測定（原子核実験）』

逸話と家族

山崎は、ラジオ番組で放射性炭素の同位体を用いた年代測定について語り、考古学への応用についても言及しました。

弟には害虫学者の山崎輝男、地殻化学者の山崎正男がいます。山崎が広島の原爆被害調査を行った際の日記は、原爆資料館に寄贈されています。

参考文献

今中哲二「原爆直後の残留放射線調査に関する資料収集と分析」
静間清「これまでの黒い雨の測定結果等について」
『ビキニ事件から30年』
理化学研究所『研究室の系統図』
浜田達二「山崎文男先生」
理化学研究所百年史 第I編 歴史と精神
大学共同利用機関法人「日本の原子核素粒子研究の礎」
原子力安全技術センター「はじめに」

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