山本博 (弁護士)

山本博：多才な足跡

山本博（1931年2月6日 - 2024年1月17日）は、日本の弁護士、著作家、翻訳家、そしてワイン評論家として、その生涯で多岐にわたる分野で顕著な功績を残しました。日本労働弁護団の名誉会長、日本輸入ワイン協会の会長、世界ソムリエコンクール日本代表審査委員、そして一般社団法人「日本ワインを愛する会」の会長といった数々の要職を歴任し、特にワイン関連の著作においては、日本で最も多い人物として知られています。

生い立ちと学生時代

神奈川県横浜市伊勢佐木町の商家（自転車屋）に生まれた山本は、旧制中学3年の時に終戦を経験しました。戦後にはサイクリングクラブを設立するなど、活発な一面を見せていました。旧制中学卒業後、昼間は英語の通訳養成学校に通いながら、夜間は早稲田大学の夜間部に通いました。学生時代には演劇活動にも熱心で、後に劇団四季の顧問にも就任しています。当初は通訳を本業とするつもりでしたが、1950年の朝鮮戦争勃発を機に、第一法学部に転学し、古典文学を読み漁る日々を送りました。大学院では民法と労働法を専攻し、ヨーロッパの政治経済への関心から、「キリスト教」「ワイン」「建築」を重要な要素と捉えていました。

弁護士としての活躍

大学院在学中に司法試験に合格し、1957年に弁護士登録。東京弁護士会に所属し、同期には狭山事件の主任弁護人を務めた中田直人や日本労働弁護団副会長の渡辺正雄らがいました。旬法法律事務所に入所後は、労働事件を主に担当。砂川事件では弁護団の一員として、安保条約の違憲性を主張しましたが、最高裁で覆されました。しかし、その後の安全保障関連法案を巡る議論では、元弁護団の一員として政府の解釈を批判しました。労働弁護士としては、全逓中郵事件など、数々の重要な訴訟に携わり、複数の違憲判決を勝ち取っています。1971年には東京協立法律事務所を設立し、総評弁護団、そしてその後の日本労働弁護団でも中心的な役割を担いました。2000年代には住基ネット訴訟全国弁護団の団長として、住基ネットの違憲性を訴え、一部勝訴を勝ち取りましたが、最高裁で棄却されています。

フランスワインへの情熱

弁護士として10年目を迎えた頃、フランスワイン視察旅行に参加したことをきっかけに、ワインの世界に魅了されました。以来、毎年フランスを訪れ、イギリスや日本の醸造所にも足を運びました。1987年には、ボジョレー・ヌーヴォー解禁日にイベントを主催し、各界の著名人が集まりました。1997年には、ワイン評論家の稲垣真美との間で論争を繰り広げ、ワイン文化に対する独自の視点を提示しました。2003年と2010年には『ワイン事典』の監修を務め、2009年には『世界のワイン法』を執筆するなど、ワインに関する深い知識と洞察を示しました。また、カリフォルニアワインの不正表示阻止活動への貢献が評価され、フランス政府から農事功労賞を授与されています。さらに、フランス食文化の普及への貢献により、2008年にはザ・フレンチ・スピリット・アワード人文科学賞を受賞しました。

日本ワインの先駆者

1994年頃から、日本ワインの研究を始めました。日本各地のワイナリーを巡り、2003年には初の本格的な国産ワイン紹介書である『日本のワイン』を出版しました。2004年には、生産者と消費者間のコミュニケーションを促進するため、『翔べ日本のワイン 現状と展望』をまとめました。さらに、『日本ワインを造る人々』シリーズを刊行し、日本のワイン産業の発展に大きく貢献しました。2004年には「日本ワインを愛する会」を設立し、試飲会やワイン講座、日本ワイン検定の実施など、日本ワイン普及のための活動を積極的に展開しました。

翻訳家としての顔

推理小説の翻訳家としても活動しており、エド・マクベインやロバート・B・パーカーなどのハードボイルド小説の日本語訳を数多く手掛けました。

著書と参考文献

多数の著書を執筆しており、ワイン、法律、エッセイなど幅広い分野にわたります。

単著

『労働委員会 制度と運用の実務』(1970年)
『人事権 伝家の宝刀に、どう対処するか』(1977年)
『男の責任 遺言を書く』(1983年)
『茶の間のワイン』(1975年)
『ワインの女王 ボルドー・ワインのすべて』(1990年)
『シャンパン物語 その華麗なワインと造り手たち』(1992年)
『わいわいワイン』(1995年)
『グラスのおしゃべり ワインとその陽気な仲間たち』(1997年)
『岩波新書「ワインの常識」と非常識』(1997年)
『フランスワインガイド 2100シャトー・ドメーヌ・醸造元総覧』(1998年)
『黄金丘陵（コート・ドール） ブルゴーニュ・ワインの故郷』(2000年)
『ワインとその陽気な仲間たち』(2000年)
『フランス・ワイン 愉しいライバル物語』(2000年)
『日本のワイン 本格的ワイン造りに挑んだ全国のワイナリー』(2003年)
『ワインの女王ボルドー クラシック・ワインの真髄を探る』(2005年)
『シャンパンのすべて 新装版』(2006年)
『ブルゴーニュ・ワイン 地図と歩く、黄金丘陵』(2009年)
『ワインが語るフランスの歴史』(2009年)
『ワインの歴史 自然の恵みと人間の知恵の歩み』(2010年)
『はてな?のワイン ワインがわかる、好きになるQ&A123』(2011年)
『ローヌとロワールのワイン 二つの河の物語』(2012年)
『新装版 シャンパンのすべて』(2012年)
『東京おいしいワインバー』(2012年)
『新・日本のワイン』(2013年)
『エピソードで味わうワインの世界』(2014年)
『ブドウと生きる グレイス栽培クラブの天・知・人』(2015年)

共著

『職場 : いきいき働く環境づくり』(1992年)
『図説 フランスワイン紀行 知られざる名産地を訪ねて』(1999年)
『ワインの事典』(2003年)
『住基ネットと監視社会』(2003年)
『翔べ日本のワイン 現状と展望』(2004年)
『日本ワイナリーガイド』(2004年)
『世界のワイン法』(2009年)
『新版 ワインの事典』(2010年)

監修

『セインツベリー教授のワイン道楽』(1998年)
『北海道のワイン 日本ワインを造る人々』(2006年)
『長野県のワイン 日本ワインを造る人々2』(2007年)
『山梨県のワイン 日本ワインを造る人々3』(2008年)
『世界のワイン 知の遊びコレクション』(2009年)
『東日本のワイン 日本ワインを造る人々4』(2010年)
『西日本のワイン 日本ワインを造る人々5』(2011年)
『地図でみる 世界のワイン』(2003年)
『地図でみる図鑑 世界のワイン』(2008年)
『世界のワイン図鑑』(2014年)

翻訳

『フランスワイン』(1974年)
『ワインの王様 バーガンディ・ワインのすべて』(1983年)
『世界のワイン』(1985年)
『新フランスワイン』(1985年)
『エヴリデイ・ドリンキング』(1985年)
『洋酒雑学百科Q&A』(1986年)
『世界のウイスキー』(1989年)
『スコッチ・モルト・ウイスキー・ガイド』(1990年)
『ブルゴーニュ・ワイン ポケット・ブック』(1993年)
『ブルゴーニュ・ワイン ハヤカワ・ワインブック』(1998年)
『ボルドー・ワイン ポケット・ブック』(1993年)
『ボルドー・ワイン ハヤカワ・ワインブック』(1999年)
『ボルドー・ワイン ハヤカワ・ワインブック 第2版』(2006年)
『ロマネ・コンティ 神話になったワインの物語』(1996年)
『マイケル・ブロードベントの世界ワイン・ヴィンテージ案内』(1996年)
『ブルゴーニュワイン』(2000年)
『ロスト・ジェネレーションの食卓 偉大な作家・芸術家は何を食べたのか』(2000年)
『リッツ・パリのカクテル物語』(2003年)
『フランスワイン格付け』(2004年)
『ボルドー格付けシャトー60』(2005年)
『ヴィンテージ・ワイン必携 過去3世紀にわたるヴィンテージ・ワインの50年を費やしたテイスティングの記録』(2009年)
『マティーニ』(2010年)
『モノグラム殺人事件』(2014年)

エド・マクベイン

『ラスト・ダンス』(2000年)
『ビッグ・バッド・シティ』(2000年)
『キャンディーランド』(2001年)
『マネー、マネー、マネー』(2002年)
『でぶのオリーの原稿』(2003年)
『歌姫』(2004年)
『耳を傾けよ!』(2005年)
『最後の旋律』(2006年)

ロバート・B・パーカー

『訣別の海』(2007年)
『アパルーサの決闘』(2007年)
『秘められた貌』(2007年)
『レゾリューションの対決』(2008年)
『容赦なき牙』(2008年)
『ワインの帝王ロバート・パーカーが薦める世界のベスト・バリューワイン』(2009年)
『ブリムストーンの激突』(2009年)
『暁に立つ』(2010年)
『昼も夜も』(2010年)

参考文献

山本博『ワインの歴史 自然の恵みと人間の知恵の歩み』河出書房新社、2010年。
山本博『西日本のワイン』ワイン王国〈日本ワインを造る人々〉、2011年。
山本博『新・日本のワイン』早川書房、2013年。
山本博『エピソードで味わうワインの世界』東京堂出版、2014年。
* 佐藤むつみ「とっておきの一枚 弁護士 山本博先生」『法と民主主義』第457号、日本民主法律家協会、2011年4月、74-75頁。


山本博は、弁護士としての正義感とワインへの情熱を併せ持ち、その多岐にわたる活動を通して、日本の社会と文化に大きな足跡を残しました。彼の業績は、今後も多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

もう一度検索