山本平弥

山本平弥（1922-2012）氏は、日本における稀有な経歴を持つ人物でした。学者としての顔を持ちつつ、海上保安官、そして海軍予備将校としての経験を有し、その生涯は波乱に富み、日本の近代史を彩る重要な足跡を残しています。

新潟県長岡市に生まれた山本氏は、1943年、東京高等商船学校（現・東京海洋大学）機関科を卒業。大阪商船に入社しますが、まもなく海軍に応召されます。太平洋戦争激化の渦中、山本氏は重巡洋艦「足柄」、そして防空駆逐艦「秋月」に機関科分隊士として乗艦。艦艇の機関部は、艦の心臓部であり、その維持管理は戦況を左右する重要な任務でした。特に「秋月」では、その沈没という過酷な経験を乗り越え、九死に一生を得ています。この経験は、後の著作にも深く反映されていると言えるでしょう。

「秋月」沈没後、山本氏は横須賀海軍砲術学校に転任。海軍予備生徒の教育に携わり、後進の育成に尽力しました。終戦時には海軍大尉の階級に達していました。戦後は大阪商船に復帰しますが、間もなく海上保安庁に入庁。巡視船機関長などを経て、海上保安大学校教授（現・名誉教授）、第七管区海上保安部長、海上保安学校長と要職を歴任しました。その卓越した指導力と専門知識は、日本の海上保安体制の強化に大きく貢献したと言えるでしょう。

海上保安庁退官後も、その経験と知識を生かし、海技大学校長を務め、後進の育成に尽力しました。さらに、大阪大学より工学博士の学位を取得するなど、学術面でも高い評価を得ています。

山本氏の著作『海軍予備士官の太平洋戦争―風呂敷に包まれた短剣』（光人社）は、高等商船学校出身の予備将校の視点から太平洋戦争を描いた貴重な記録です。同書では、戦争の残酷さと悲惨さ、そして人々の生き様が生々しく描かれており、現代社会においても、平和の尊さ、そして歴史を学ぶ上で重要な一冊となっています。本書は、山本氏の戦争体験、そしてその後の海上保安庁での経験が凝縮された、唯一無二の著作と言えるでしょう。

山本平弥氏の生涯は、戦争、そして平和、そして日本の発展に貢献した、極めて多角的な人生でした。その経験は、後世に残すべき貴重な遺産であり、今後も多くの研究者や読者にとって、重要な研究対象、そして学びの教材となるでしょう。

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