山田多賀市

山田多賀市（やまだ たかいち）は、1907年12月16日に長野県南安曇郡三田村田尻（現在の安曇野市）で生まれました。本名は多嘉市と書き、小説家、そして農民運動家としてその生涯を刻みました。1990年9月30日に82歳で没しています。

幼少期に小学校を中退後、13歳で奉公に出て、建設作業員や瓦職人として各地を転々としました。19歳の時に伊那谷の発電工事現場で、葉山嘉樹と出会い、その知遇を得たことが、彼の人生に大きな影響を与えます。その後、山梨県に移り、21歳で日本農民組合青年部に加入し、小作料引き下げ闘争などの農民解放運動に身を投じますが、病に倒れ、運動から離れることになります。

25歳で作家を志し、新田潤の勧めで書いた短編「夕立雲」が1937年に「人民文庫」に掲載されます。1939年からは同人雑誌「槐」に代表作となる小説『耕土』を発表し、「中央公論」や「赤門文学」で高い評価を受けました。1942年には小説『生活の仁義』を「文芸復興」に発表しますが、翼賛文学に与することなく軍国主義に抵抗したため、検閲による発禁処分を幾度も受け、特別高等警察に拘束されることもありました。

太平洋戦争中も反戦の意思を貫き、1943年には自ら死亡診断書を偽造し、徴兵を逃れました。戦後、自身の戸籍が甲府空襲で抹消されていることを知りながらも、反戦を貫くために戸籍の復活を拒否しました。

1949年には農村文化協会を設立し、農業技術雑誌「農業と文化」「農政と技術」や雑誌「農民文学」を創刊し、編集長として10年間活動しました。「農民文学」は犬田卯・住井すゑ夫妻らの協力を得て刊行されましたが、長くは続かず、後に南雲道雄が引き継ぎました。その後は印刷業を営む傍ら、1971年に自伝的小説『雑草』を出版し、全線文学賞を受賞しました。また、1977年には北富士演習場問題を描いた『実録小説・北富士物語』、1984年には随筆『終焉の記』を出版しました。1990年、脳虚血のため山梨県立中央病院で死去しました。

山田多賀市の作品は、農民の視点から社会の矛盾を鋭く描き出し、戦争への抵抗と平和への希求を強く訴えるものでした。彼の文学は、時代を超えて読み継がれるべき貴重な遺産と言えるでしょう。

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