山田文法

山田文法：意味と機能を重視した革新的な日本語文法理論

山田文法は、言語学者山田孝雄によって提唱された日本語文法理論です。既存の文法理論とは一線を画す、独自性と革新的な視点を持つ理論として知られています。本稿では、山田文法の主要な概念や特徴を解説します。

山田文法の基礎：意味中心の文法論

山田文法は、言語現象を「意味」という観点から捉えることを重視しています。文法現象を形式的な規則として記述するのではなく、その意味や機能、そして言語使用における役割を重視することで、日本語の奥深い構造を解き明かそうとする試みです。この意味中心の文法論は、心理主義的な内容主義に基づいており、言語の背後にある思想や意図を重視する立場を取っています。

山田文法の根幹をなすのは「文の成立の契機」という問いへの考察です。文とは、どのような契機によって成立するのか、そしてその本質とは何かを問いかけ、意味と機能に基づいた文法体系を構築しようと試みています。その過程で「統覚作用」という概念が重要な役割を果たします。これは、文を構成する要素間の意味的な関連性、つまり、複数の要素がどのように結びついて一つの意味を形成するのかという作用を指しています。この統覚作用は、ドイツの心理学者ヴントの思想の影響を受けているとされます。

品詞分類：職能と意義に基づく分類

山田文法における品詞分類も、意味と機能を重視した独自のものです。山田孝雄は、言語を分解してそれ以上に分けられない最小の思想単位を「語」と定義し、その「職能（文における役割）」と「意義（意味）」、そして「形式の変化」を基準として分類しています。

まず、「語」を大きく二種類に分類します。一つは観念語で、現実世界の事象や概念を表す語です。もう一つは関係語で、観念語同士の関係を示す語です。さらに、観念語は「単独で文を形成できるか否か」で自立語と非自立語に分けられます。関係語は、その機能によって分類されます。

山田文法では、用言と助動詞の複合体を切り離さずに扱い、助動詞を複雑な語尾である「複語尾」として捉えています。この点については、分類が粗すぎるという批判もあります。また、接続詞や感動詞を副詞の一種として分類するなど、従来の文法分類とは異なる独自の分類体系を持っています。

句と文の構造：統覚作用と陳述

山田文法では、統覚作用が一回のものが「句」と定義されています。句は、単一の思想を表す最小の単位です。句は、自立語中心の独立句と、非自立語中心の従属句に分類されます。複数の句が組み合わさって文が形成されます。

文の成立については、「陳述」という概念が重要です。山田文法において、「陳述」とは、文が何らかの事柄を述べているという作用を意味します。この「陳述」は、用言と密接な関係にあり、文を完結させる用言が陳述の担い手となります。また、係り結びの現象も「陳述」と関連づけられ、係り結びは陳述との呼応関係として捉えられています。

文の成分については、「格」という概念を用いて説明しています。山田文法における格は、助詞以外の語が文の中で互いに関係を持つことで生じる関係性を指し、助詞は格自体にはならないとされています。

山田文法の意義と影響

山田文法は、その革新的な視点と、意味と機能を重視する独自の体系から、現代の日本語研究にも大きな影響を与えています。意味中心の文法論という観点は、後の日本語研究においても重要なテーマとなり、多くの研究者によって検討、発展させられてきました。一方で、その分類体系や概念の解釈については、現在も議論が続けられています。

山田孝雄の著作は、今日でも日本語文法を研究する上で貴重な資料であり、その独自の視点と体系は、現代の日本語理解を深める上で重要な役割を果たし続けています。様々な解釈や批判もある中で、山田文法は、日本語文法研究の進歩に大きく貢献した理論として評価されています。

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