山縣文治

山縣 文治

日本の児童福祉学分野における第一人者の一人である山縣 文治（やまがた ふみはる）氏は、1954年10月3日に広島県で生を受けました。氏の学術的なキャリアの基盤は、大阪市立大学で築かれました。1978年に同大学の生活科学部社会福祉学科を卒業後、研究者としての道を志し、大学院生活科学研究科の後期博士課程に進学。1982年には所定の単位を取得し、学修を修了しました。

学術および教育活動の軌跡

大学院修了後、山縣氏は母校である大阪市立大学に戻り、児童福祉学の研究・教育に身を投じました。大学でのキャリアは助手から始まり、その着実な実績が認められ、1992年に講師、そして1994年には助教授へと昇進しました。その後、教授として長年にわたり、多くの学生の指導にあたるとともに、児童福祉に関する深い研究を推進しました。この大阪市立大学在職中に、氏の学術的な貢献の一つである博士論文を完成させました。1999年には、「児童福祉法の改正と児童福祉施設 子ども家庭福祉サービス論の構築に向けて」というテーマの研究成果により、大阪市立大学から博士（学術）の学位を授与されました。この論文は、日本の児童福祉制度が変化していく中で、いかにして子どもと家庭へのサービス提供体制を構築していくべきかという、当時の喫緊の課題に焦点を当てたものであり、氏の専門性の高さを示すものです。

大阪市立大学での長年の奉職を経て、山縣氏は2012年に関西大学人間健康学部の教授に就任しました。新たな環境においても、児童福祉および人間健康に関する幅広い視点から研究・教育活動を展開しました。そして、2025年からは大阪総合保育大学の特任教授として、これまでの豊富な経験と知識を活かし、未来を担う保育・福祉人材の育成に貢献する予定です。

公的な貢献

学術界での活動に加え、山縣氏は国の重要な政策決定プロセスにも参画しています。特に、2023年に設置されたこども家庭庁の審議会委員に任命されたことは、氏が長年にわたり積み重ねてきた児童福祉分野の研究成果と、その実践への深い洞察が、国の施策立案において不可欠であると評価されている証左と言えるでしょう。審議会委員として、氏は子どもや家庭を取り巻く諸課題の解決に向けた提言を行い、政策の質の向上に寄与しています。

著作および編著活動

山縣氏の学術的な貢献は、多数の著作として結実しています。単著としては、『現代保育論』や『児童福祉論』（いずれもミネルヴァ書房）など、専門分野の基礎を学ぶ上で重要な書籍を著しています。

しかし、氏の業績の中でも特筆すべきは、その膨大な数の共編著書です。社会福祉学の幅広い領域、特に児童福祉、家族福祉、社会的養護、保育、地域福祉、家族援助論など、多岐にわたるテーマについて、他の研究者や実務家と共同で書籍を編集しています。これらの編著は、それぞれの分野における最新の研究成果や議論をまとめ、学生や研究者、そして現場の実務家にとって貴重な情報源となっています。主な編著書の一部を以下に示します。

『福祉の仕事』
『新しい子ども家庭福祉』
『社会福祉用語辞典』
『ソーシャルウエルビーイング事始め 社会福祉の仕組み』
『保育サービス再考 児童福祉制度の変革とこれからの子育て支援』
『子ども家庭福祉とソーシャルワーク』
『社会的養護の現状と近未来』
『子どもと家族のヘルスケア 元気なこころとからだを育む』（編集代表）

中でも、ミネルヴァ書房の「やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ」において、『よくわかる子ども家庭福祉』、『よくわかる社会福祉』、『よくわかる地域福祉』、『よくわかる養護原理』、『よくわかる家族援助論』、『よくわかる家庭支援論』、『よくわかる社会的養護』など、多数の巻の編者を務めている点は重要です。これらのシリーズは、複雑な専門分野の内容を初心者にも理解しやすいように解説することを目的としており、氏が研究成果の普及と教育にも力を入れていることを示しています。

さらに、山縣氏は海外の児童福祉に関する重要な文献の紹介にも貢献しています。英国の社会福祉施設に関する『社会福祉施設のとるべき道 英国・ワグナーレポート』の監訳や、子どものレジリエンス（困難を乗り越える力）に焦点を当てた『子どものリスクとレジリエンス 子どもの力を活かす援助』の共訳を手がけており、日本の学術界における国際的な知見の導入に貢献しています。

山縣文治氏は、理論研究、教育、政策提言、そして啓蒙活動と、多角的なアプローチを通じて日本の児童福祉学の発展と、より良い子ども家庭支援システムの構築に長年にわたり貢献している、影響力のある学者です。

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