山陽文徳殿

山陽文徳殿は、広島市南区の比治山公園北西に位置する、頼山陽の学徳を偲んで建てられた遺構です。頼山陽は江戸時代後期の儒学者で、著書『日本外史』は幕末維新期の尊王攘夷運動に大きな影響を与えました。この建物は、その山陽の「文徳」を称え、1934年に彼の没後100年を記念して建立されました。

建物は鉄筋コンクリート構造の平屋建てで、モダンな外観が特徴的です。屋根には九輪が設置されていますが、これは1945年の原爆投下により変形したものです。爆心地から約1.82kmに位置したため、爆風で窓や瓦が飛び、九輪は熱風によって楕円形に変形し、西方面に傾いています。玄関前にあるソメイヨシノも被爆樹木として、その歴史を物語っています。

建設にあたっては、民間からの寄付と広島市の負担により費用が賄われました。山陽文徳殿が建てられた場所は、頼山陽の父である頼春水ら頼家一族の墓地がある多聞院に隣接しており、この縁もあってこの地が選ばれたと言われています。また、翌年には袋町にあった頼山陽の旧居を利用した山陽記念館（現・頼山陽史跡資料館）も開館しています。

太平洋戦争中には、広島市役所の出先機関として「戸籍選挙課分室」が置かれ、戸籍原簿が疎開されました。原爆投下時には建物は焼失を免れましたが、戸籍課の職員が被爆し、犠牲者も出ました。しかし、疎開されていた戸籍は無事であり、終戦後間もなく戸籍業務が再開されました。

戦後、応急修理を経て、1946年から1949年まで市立浅野図書館（現・広島市立中央図書館）として利用されました。その後、図書館の建て替えに伴い、1953年から1955年にも臨時の浅野図書館として使用されました。その後は市の社会教育施設として利用されていましたが、利用者が減少したため1964年に閉鎖され、現在に至っています。

山陽文徳殿は、1993年に広島市が選定した被爆建物リストに登録され、原爆の惨禍を伝える歴史的建造物としてその存在が確認されています。現在、建物の管理は十分とは言えず、無断駐車や私物が置かれるなどの問題も抱えています。しかし、その歴史的価値は揺るぎなく、今後も保存と活用が求められる建物です。

交通アクセスは、広島電鉄皆実線「比治山下」停留所から徒歩すぐです。

関連施設としては、山陽の旧居である頼山陽史跡資料館（広島市中区）、山陽の書斎である山紫水明處（京都市上京区）、山陽の祖父が営んでいた頼惟清旧宅（竹原市）などがあります。

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