岐国公主

岐国公主：チンギス・カンの妃となった金朝の皇女

岐国公主（きこくこうしゅ、生没年不詳）は、13世紀初頭のモンゴル帝国の創始者チンギス・カンの側室の一人です。彼女は、第一次対金戦争の講和の際に、金朝からチンギス・カンの妃として差し出されました。金朝の皇帝であった衛紹王の娘であり、梁王従恪の姉にあたります。

モンゴル側では、岐国公主のことを「公主（gōngzhŭ）」が転訛したグンジ（モンゴル語: Güngji）という名前で呼んでいました。ペルシア語史料である『集史』でも、グンジュ・ハトゥン（گونجو خاتون, gūnjū khātūn）と記録されています。

金朝との講和の象徴

1211年に始まったモンゴル帝国の第一次金朝侵攻において、モンゴル軍は金軍を各地で打ち破り、1215年には金朝の首都である中都を包囲する事態となりました。包囲された金朝朝廷では、抗戦派の高琪と和議派の完顔福興（金朝の宗室）の間で激しい議論が交わされました。その結果、モンゴル帝国との一時的な和議を求める完顔福興の案が採用されることになりました。

そこで、従兄の宣宗によって講和のために選ばれたのが岐国公主でした。金朝の宗室である完顔合達の護衛の下、岐国公主はチンギス・カンの下に送られ、これを以て和議の証とされました。モンゴル軍は一時的に華北から引き上げました。

モンゴル宮廷での地位

チンギス・カンの妃となった岐国公主は、正夫人に次ぐ高い地位を与えられ、モンゴル帝国内では「グンジ」の名で知られました。しかし、これ以後の岐国公主の活動については、ほとんど知られていません。

『集史』「チンギス・カン紀」によると、アリクブケがカラコルムを治めていた頃まで存命であったと伝えられています。彼女がモンゴル帝国の歴史にどのような影響を与えたのか、詳しい記録は残っていませんが、金朝との和平交渉において重要な役割を果たしたことは間違いありません。

岐国公主は、動乱の時代を生きた皇女であり、政略結婚によって異国の地に嫁ぎ、その後の消息は歴史の狭間に消えていった女性です。彼女の生涯は謎に包まれていますが、モンゴル帝国と金朝という二つの大国の関係を考える上で、重要な人物の一人と言えるでしょう。



参考文献

志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

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