岡崎文彬

岡崎文彬（おかざき あやあきら）

岡崎文彬氏は、1908年（明治41年）に現在の大阪府茨木市に生まれ、1995年（平成7年）にその生涯を閉じた日本の高名な造園家、造園学者、そして林学者です。京都大学名誉教授として、長年にわたり林学ならびに造園学の分野で研究と教育に専念し、多岐にわたる顕著な業績を挙げるとともに、多くの優秀な人材を育成しました。

学究の道と欧米への旅

1931年（昭和6年）、京都帝国大学農学部林学科を卒業後、同大学の助手となります。当初は森林美学に関心を持っていましたが、1933年（昭和8年）に助手の職を辞し、造園学研究のために3年間にわたり欧米各国を巡る旅に出ます。この留学期間中に、古代エジプトからローマ時代、中世スペイン、イタリア・ルネサンス、フランス古典期、さらには近代ドイツのクラインガルテンに至るまで、西洋庭園の歴史を深く探求しました。彼はこの研究のために7ヶ国語を駆使し、膨大な文献史料を正確に考証すると同時に、現地での周到な調査を実施しました。この集大成ともいえる西洋庭園史の研究業績は、後に日本造園学会賞（1968年）を受賞するに至り、岡崎氏を造園学界における西洋造園史研究の第一人者としての地位を確立しました。

1936年（昭和11年）に京都帝国大学農学部に助手として復帰後も、庭園研究に加え、樹木生理学や、戦後には森林施業および森林風致の研究にも取り組みました。

多様な研究分野と社会への貢献

岡崎氏の研究対象は西洋庭園史にとどまらず、日本の伝統的な庭園についても深く研究し、大著『日本の古庭園（上下巻）』を刊行しました。さらに、東洋諸国の庭園史にも関心を寄せ、多数の著書や論文を発表しています。

林学分野における業績も特筆されます。森林経理学を中心に、林木生理（特にスギの水分生理）、森林計測、森林経営などに関する優れた研究成果を残しました。日本の集約的な森林経営体系確立に向けた照査法の先駆的な研究を行い、その応用として北海道北見に実験林を設置しました。また、森林レクリエーションや森林の風致的利用といった現代的な課題にも早くから取り組み、林業経営と両立可能な森林風致施策を提唱しています。

大学での教育・研究活動に加え、その専門知識を活かして広く社会にも貢献しました。日本林学会や日本造園学会で精力的に活動し、造園学会では理事や副会長を務めました。特に、若い造園学徒の研究発表の機会を創出するため、1966年（昭和41年）には造園学会関西支部を設立しました。

また、文化庁、林野庁、科学技術庁などの国の機関や地方自治体の各種審議会・委員会に委員として参加し、文化財保護（例：宮内庁の桂離宮御殿整備工事委員会委員）や自然環境の保全、学術振興に尽力しました。これらの社会への貢献に対し、1995年（平成7年）には京都府文化特別功労賞を授与されています。

膨大な著作と受賞歴

京都大学を退官した1972年（昭和47年）以降も、研究活動への情熱は衰えることなく、多くの著作を世に送り出しました。最終的に公刊された研究業績は、林学に関する著書17冊、論文46編、造園学に関する著書42冊、論文77編に及ぶほか、随筆など369編にものぼります。特に、長年の西洋造園史研究を集大成した全3巻からなる『造園の歴史』（同朋舎出版、1981年刊行）は高く評価され、1982年（昭和57年）に第36回毎日出版文化賞特別賞を受賞しました。

その輝かしい業績に対しては、日本造園学会賞、毎日出版文化賞特別賞、日本造園学会上原敬二賞（1993年）、京都府文化特別功労賞など、数々の賞が贈られました。また、1980年（昭和55年）には叙勲三等授旭日中綬章を受章しています。

遺産

研究と教育に多大な功績を残し、日本の林学界および造園界を指導した岡崎氏は、1995年（平成7年）に京都で逝去しました。没後、1998年（平成10年）には、ご遺族により欧州や日本の庭園に関する膨大な写真やスライド資料（約7万点）が国際日本文化研究センターに寄贈され、現在も貴重な研究資料として活用されています。

岡崎文彬氏の生涯は、学問への深い探求心と教育者としての情熱、そして社会への貢献に捧げられたものであり、その業績は今日の造園学・林学研究、そして文化財保護や環境保全の分野に大きな影響を与え続けています。

もう一度検索