上原敬二

上原敬二（うえはら けいじ）

日本の造園研究家。1889年（明治22年）2月5日、東京深川の材木商の家に生まれる。林学博士、東京農業大学名誉教授。日本の造園教育の創始者として広く知られている。

生い立ちと教育

上原家は丹波綾部を郷国とし、先祖は北面の武士、祖父は京都鷹司家の一族で藩主の祐筆を務めたと伝えられる。敬二自身も幼少から書道の塾に通っていた。父安平は本業に加え、伏見宮家の造林掛として千葉県の御料林に出張し、材木の伐採を監督することもあった。敬二は10代の頃から父の仕事を通じて宮家の行事に出入りし、手伝いを命じられることもあったという。

1904年（明治37年）、旧制東京府立第三中学校（現・東京都立両国高等学校）に入学。同級には後に小説家となる久保田万太郎が、2級下には芥川龍之介がいた。終戦前後の苦しい時期には、久保田に小説家への転向を相談したこともあった。その後、旧制第一高等学校を経て、1914年（大正3年）に東京帝国大学農学部林学科を卒業する。卒業にあたり、学究生活を続けることを固く決意し、当時の林業界が就職先にあふれていたにもかかわらず、敢えて大学院へ進学。森林美学、造園学、樹木学、建築学などを専門とした。

明治神宮造営と博士号取得

大学院在学中、当時の指導教授であった本多静六博士から、計画が進められていた明治神宮の境内林設計への協力を度々求められるようになる。当初、上原は研究者志望であり、役人として奉職する気はなかったため協力を渋った。しかし本多は、神宮での実務経験こそが研究に役立つ絶好の機会であると説き、責任者としての就職を強く勧めた。役人になることを好まなかった上原であったが、恩師の熱心な勧めを断りきれず、内務省（造神宮使庁）嘱託として神宮造営に携わることを承諾した。この経験は、後の神社林研究へと繋がり、林学博士号を取得する礎となった。

教育者・研究者としての足跡

博士号取得後、造園学の研究のため欧米へ留学。特にアメリカ合衆国の都市公園事情を詳細に分析し、その後の日本の公園整備に大きな影響を与えた。1918年（大正7年）には上原造園研究所を設立。1923年（大正12年）に関東大震災が発生すると、帝都復興院に任用されるが、わずか7ヶ月で辞職する。

震災からの復興には造園技術者の育成が不可欠と考えた上原は、その翌年、東京農業大学の前身である東京農学校の敷地内に東京高等造園学校を設立し、自ら校長に就任した。この学校において、彼は造園学を学術的に体系化し、複雑な造園技術を分かりやすく解き明かす教育を展開。日本の造園教育の基礎を築いた。

また、1924年（大正13年）には日本で初めて本格的な造園学の体系書とされる『造園学汎論』を林泉社から刊行。この書籍は、造園の対象を広範に提示し、都市公園や国立公園などの公共造園に関する先進的な視点を含む、当時の行政状況においては画期的な内容であった。その構成は、現在の造園界の骨格にも通じる先見性が認められている。

東京高等造園学校は1942年（昭和17年）に東京農業大学専門部に併合され、現在の造園科学科へと発展した。上原はその後、東京農業大学教授も務めた。

実践と著作

教育・研究活動のかたわら、造園技術者としても精力的に活動した。東京帝国大学大学院在学中に関わった明治神宮のほか、横浜山手の西洋庭園など、生涯にわたり築造した庭園は三百余に及ぶと言われる。また、東京市や横浜市の公園事業の嘱託として、調査計画にも深く関与した。

多数の著書を刊行しており、代表的なものには『造園学汎論』のほか、『樹木大図説』、『造園大辞典』、『樹木ガイドブック』などがある。これらの著作は、造園系の学校や学科で学ぶ学生たちの参考書として、今なお広く活用されている。

後世への影響

日本の造園教育の発展に多大な功績を残した上原敬二の業績を記念し、優秀な作庭家や造園研究者の育成を目的として、日本造園学会および東京農業大学造園科学科により「上原敬二賞」が設けられている。墓所は東京都府中市の多磨霊園にある。

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