岡森博和

岡森博和（おかもり ひろかず）は、日本の数学者であると同時に、算数教育学の研究者としても顕著な業績を残した人物です。1927年8月28日に大阪府に生まれ、2012年7月23日に逝去しました。彼の学問的、教育的キャリアは、教育現場での実践経験と、大学での体系的な研究活動の両輪によって支えられていました。

経歴

岡森氏は、現在の大阪教育大学の前身の一つである大阪学芸大学にて、中等教育課程を修了しました。卒業後、まず大阪教育大学附属高等学校において教壇に立ち、生徒たちへの直接的な数学教育に携わりました。この経験を通じて培われた教育現場への深い理解は、その後の研究活動の基盤となりました。1968年には、母校である大阪教育大学教育学部に助教授として着任。教育学と数学を結びつけた研究に本格的に従事するようになります。その後、教授に昇任し、長年にわたり多くの学生や研究者の育成に尽力しました。教育に対する真摯な姿勢と、研究における探究心は、多くの人々に影響を与えました。1993年に大阪教育大学を定年退官した際には、その永年の教育・研究における貢献が称えられ、同大学の名誉教授の称号を授与されています。

業績と研究

岡森氏の研究領域は多岐にわたりました。初期には数学そのもの、特に集合代数といった分野に関心を寄せましたが、次第にその重心は学校教育における算数・数学の指導法へと移っていきました。彼は、難解と思われがちな数学的概念を、生徒が理解しやすい形で提示するための方法論や教材の開発に熱心に取り組みました。中学生向けに執筆された複数の著作は、そうした彼の教育的な配慮と研究成果を具体的に示すものです。また、教育大学の教授として、将来の算数・数学教師となる学生たちの教育に情熱を注ぎました。教育現場のニーズを踏まえた実践的な研究を重視し、その成果を教育現場へ還元することを常に意識していました。彼が編著として携わった「教育大学教育実践シリーズ」は、その教育理念の一端を垣間見ることができます。

さらに、時代の変化にも敏感に対応し、コンピュータが教育に導入され始めた頃から、その教育的活用について積極的に研究を進めました。『数学教育とパソコン』や『算数教育とパソコン』といった著書は、教育における情報通信技術（ICT）活用の可能性を探る先駆的な試みであり、当時の教育界に新たな視点を提供しました。また、21世紀に向けた学校数学教育のあり方を探る著作にも名を連ねるなど、常に教育の未来を見据えた活動を行っていました。彼の研究は、教育理論と実践を架橋し、日本の算数・数学教育の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。

主な著作

岡森博和氏が執筆・編集した主な著作には、以下のものが挙げられます。

単著:
『集合代数』 (図解初等数学選書), 岩崎書店, 1967年
『方程式の応用問題』 (中学生の数学ライブラリー), 岩崎書店, 1979年4月
共編著・編著:
『関数と解析』 (中学生の数学), 国土社, 1973年9月 (本間俊宏共著, 横地清編)
『立体を追う』 (中学生の数学ライブラリー), 岩崎書店, 1978年8月 (鈴木正彦共著)
『算数・数学教育の研究と実践』 (教育大学教育実践シリーズ), 第一法規出版, 1983年2月 (編著)
『数学教育とパソコン』, 第一法規出版, 1987年4月 (編著)
『算数教育とパソコン』, 第一法規出版, 1987年4月 (編著)
『21世紀への学校数学の展望 新版』, 誠文堂新光社, 1998年10月 (横地清 監修, 鈴木正彦, 高田彰, 町田彰一郎, 森川幾太郎共編)

これらの著作は、彼の幅広い専門知識と、初等から中等教育、そして教育方法論に至るまで、多様な分野への関心を示すものです。特に、コンピュータの教育利用に関する著作は、その先見性において特筆されます。

岡森博和氏は、教育者として、また研究者として、生涯を通じて算数・数学教育の質的向上に捧げた功績は大きく、彼の業績と思想は、今日においても多くの教育関係者にとって貴重な示唆を与え続けています。

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