岡田壽吉

岡田壽吉：原爆の惨禍と市政の再建に尽力した長崎市長

岡田壽吉（おかだ ひさきち / じゅきち、1887年1月4日 - 1949年3月6日以降）は、長崎市長を2期務めた人物で、特に1945年8月9日の長崎原爆投下時の市長としてその名を知られています。彼の生涯は、激動の時代における地方自治の難しさと、一人の人間が直面した悲劇を映し出しています。

生い立ちと経歴

兵庫県出身の岡田は、1921年に東京帝国大学法学部を卒業後、三菱重工長崎造船所に入社しました。そこで総務部長や副長などを歴任する一方、長崎市会議員を2期務め、市政にも関わるようになりました。1941年10月22日には、民間出身として初めて長崎市長に就任しました。しかし、その直後に太平洋戦争が勃発し、戦時体制が強化される中で、困難な市政運営を強いられました。

原爆投下と復興への尽力

1945年8月9日、長崎市に原子爆弾が投下され、市は壊滅的な被害を受けました。岡田自身も市庁舎で被爆しましたが、幸いにも命は助かりました。しかし、爆心地からわずか約200メートルの自宅で、妻と長女、そして旧制瓊浦中学に通っていた長男という最愛の家族3人を失うという深い悲しみを経験しました。

それでも岡田は、市長として長崎県や軍と協力し、被災者の救出救護、道路や施設の復旧、遺体処理など、被災地全域での復興活動に全力を注ぎました。終戦後も、占領下での新政策や市民生活の再建に尽力し、同年10月には再選を果たしました。

公職追放と失踪、そして悲劇的な最期

しかし、戦時中に県の翼壮団長を務めていたことが問題視され、公職追放の対象となってしまいます。再選から約1年後の1946年10月15日、岡田は長崎市長を辞職しました。追放期間中には再婚し、青果会社の社長に迎えられましたが、1949年3月6日に突然失踪し、その後行方不明となりました。

失踪から7年後の1956年11月18日、長崎市内の八郎岳で白骨化した遺体が発見されました。前歯に分厚い金入歯があったことから、遺体は岡田壽吉であることが確認されました。発見場所近くの木の枝に紐が掛かっていたことから、死因は自殺と断定されました。自殺の原因は不明ですが、公職追放解除の希望がないことに失望していたという説があります。

関連人物

粟屋仙吉: 広島原爆で死亡した当時の広島市長。
永野若松: 長崎原爆当時の長崎県知事。被爆を免れて市民の救援活動にあたった。



岡田壽吉は、原爆という未曾有の災厄に見舞われた長崎市の復興に尽力した市長でしたが、戦後の混乱の中で悲劇的な最期を遂げました。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた地方政治家の姿を今に伝えています。

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