岡田敦

岡田敦（おかだ あつし）

写真家の岡田敦は、1979年7月24日に北海道稚内市で誕生しました。北海道にルーツを持ち、現在は東京を拠点に活動しています。大阪芸術大学、東京工芸大学大学院で写真を学び、後者では芸術学の博士号を取得しています。そのキャリアを通じて、第4回富士フォトサロン新人賞をはじめ、写真界で最も権威ある賞の一つとされる第33回木村伊兵衛写真賞、第66回北海道文化奨励賞、第33回写真の町東川賞特別作家賞、JRA賞馬事文化賞など、数々の著名な賞を受賞しており、現代日本を代表する写真家の一人として評価されています。

生い立ちと初期の活動

幼少期を稚内と札幌で過ごした岡田氏は、幼い頃から美術に関心を抱いていました。北海道札幌北陵高等学校を卒業後、写真家を志し、1999年に大阪芸術大学芸術学部写真学科に進学。大学では写真家・土田ヒロミ氏に師事し、写真の基礎と表現を深く追求しました。在学中の2002年には、早くも頭角を現し、富士フォトサロン新人賞を受賞します。この時の選考委員だった写真家の浅井愼平氏は、彼の才能を「鋭く繊細で優しい」と評し、「奇跡かもしれない」とその登場を絶賛しました。卒業制作では学長賞を受賞するなど、早くからその才能が注目されていました。大学卒業後は、写真家の細江英公氏の推薦により、東京工芸大学大学院に進学。東京に拠点を移し、細江氏のもとでさらなる研鑽を積みます。2004年には“写真界の芥川賞”とも称される木村伊兵衛写真賞の最終選考候補となり、その後の活躍を予感させました。

受賞と代表作

大学院博士後期課程を修了し、芸術学博士号を取得した2008年、岡田氏はついに第33回木村伊兵衛写真賞を受賞します。受賞対象となった写真集『I am』（赤々舎）は、自己の内面や存在に深く向き合った作品であり、世界的な彫刻家である舟越桂氏が帯に文章を寄せるなど、各界から高い評価を得ました。この受賞は、写真家としての地位を確固たるものとしました。その後も、木村伊兵衛写真賞受賞第一作となる写真集『ataraxia』（青幻舎、2010年）、『世界』（赤々舎、2012年）、『MOTHER』（柏艪舎、2014年）、『1999』（NAGATOMO White Label、2015年）などを精力的に発表し、国内外で個展を開催するなど活動の幅を広げています。

ユルリ島の野生馬

岡田氏の活動の中でも特筆すべきは、北海道根室半島沖に位置する無人島・ユルリ島に生息する野生馬を追った長期的なプロジェクトです。2011年から始まったこの撮影は、北海道の天然記念物に指定されているため、学術調査以外の目的での上陸が厳しく制限されている島での粘り強い取り組みによって実現しました。岡田氏が撮影を開始した当時、島にはすでに雄馬はおらず、残された12頭の雌馬は、いずれ世代交代が途絶え、消滅に向かう運命にありました。メディアの上陸がほとんどない中で始まった岡田氏の撮影活動は、この島の存在とそこに生きる馬たちの儚い命の営みに光を当てるきっかけとなり、徐々に社会的な注目を集めるようになりました。このユルリ島での一連の創作活動は高く評価され、2017年には第33回写真の町東川賞特別作家賞を、そしてユルリ島での十年以上にわたる記録をまとめた書籍『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』（インプレス、2023年）で2024年にJRA賞馬事文化賞を受賞しました。消えゆく命と場所への深い視線は、多くの人々に感動を与えています。

多様な活動と評価

岡田氏は、純粋な写真作品の制作・発表にとどまらず、多岐にわたる分野でその才能を発揮しています。村上春樹原作、トラン・アン・ユン監督の映画「ノルウェイの森」の公式ガイドブックの撮影や、小説の挿絵、他のアーティストの写真集撮影（関ジャニ∞安田章大氏『LIFE IS』など）も手掛けています。また、北海道を代表する洋画家・神田日勝（1937-1970）の作品とのコラボレーション企画展「神田日勝×岡田敦 幻の馬」（2023年、神田日勝記念美術館）を開催するなど、異分野との交流も積極的に行っています。国内外での多数の展覧会開催に加え、テレビやラジオへの出演、CM撮影なども手がけており、写真表現の可能性を追求し続けています。かつて浅井愼平氏が評した「鋭く繊細で優しい才能」は、時を経てさらに深化し、現代社会における生命や存在、記憶といった普遍的なテーマを、力強い視点と独自の美意識で描き出しています。また、各種フォトコンテストの審査員を務めるなど、後進の指導や写真文化の普及にも貢献しています。

主な作品・著作

写真集：『Platibe』（2003年）、『I am』（2007年）、『ataraxia』（2010年）、『世界』（2012年）、『MOTHER』（2014年）、『1999』（2015年）、『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』（2023年）など
関連書籍：映画『ノルウェイの森　公式ガイドブック』写真担当（2010年）、小説『月光川の魚研究会』写真担当（2011年）、安田章大写真集『LIFE IS』写真担当（2020年）など

結論

岡田敦氏は、北海道の厳しい自然の中で培われた感性と、都市でのアカデミックな学びを背景に、自己の内面から社会、そして消えゆく自然へと、多様なテーマに深く切り込む写真表現を展開しています。数多くの受賞歴に裏打ちされた確かな技術と、見る者の心に静かに響く詩的な表現は、今後も多くの人々を魅了し続けることでしょう。特に、ユルリ島の野生馬という、失われゆくものへの真摯な眼差しは、現代社会に生きる私たちに、生命の尊厳や環境問題について深く考えさせる示唆に富んでいます。彼の活動は、単なる記録を超え、写真芸術の新たな地平を切り開くものとして、国内外から注目されています。

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