岡見正雄

岡見正雄：中世文学研究の泰斗

岡見正雄（1913-1990）は、20世紀を代表する国文学者の一人です。東京に生まれ、秋田県に本籍を置く彼は、大阪で青年期を過ごし、浪速高等学校を経て京都帝国大学文学部国文科を卒業、同大学院に進学しました。

その後、天理外国語学校（現天理大学）、京都府立の高等学校、京都市立高等学校などで教鞭をとりながら研究を続け、1962年には『中世小説研究序説』で京都大学より文学博士号を取得。この論文は、後の彼の研究の礎となりました。

1954年には京都女子大学教授に就任し、その後関西大学教授、中京大学教授を歴任。各大学で後進の育成に尽力しました。

岡見正雄の研究は、主に中世文学、特に室町時代の文学に焦点を当てています。緻密な考証に基づいた独自の解釈は、多くの研究者に大きな影響を与えました。特に『太平記』や『義経記』といった代表的な作品に関する研究は高く評価されています。

彼の学問的業績は、単なる研究論文にとどまりません。数々の編著書、校注を通して、古典文学を広く一般に紹介することに貢献しました。代表的なものとしては、岩波書店から刊行された『日本古典文学大系』への貢献が挙げられます。『太平記』『義経記』『愚管抄』など、複数の巻の校注に携わっており、現代の読者が古典文学にアクセスするための重要な土台を築きました。

さらに、角川書店から刊行された『日本古典鑑賞講座』や『鑑賞日本古典文学』シリーズへの参加など、古典文学の普及にも尽力しています。これらの著作は、専門家だけでなく、一般の読者にも古典文学への理解を深める機会を提供しました。

また、岡見正雄は『室町文学の世界 面白の花の都や』（岩波書店）のような、一般読者向けに分かりやすく書かれた著作も残しています。これらの著作は、彼の専門的な知識を基盤としながらも、親しみやすい語り口で書かれており、多くの人に中世文学の魅力を伝えることに成功しました。

『標注洛中洛外屏風 上杉本』（岩波書店）のような、絵巻物や屏風絵の研究にも携わっており、彼の研究対象は、テキストに限らず、視覚的な文化遺産にも及んでいました。多角的な視点から中世文化を深く探求したことが分かります。

1987年に中京大学を退職した後も、岡見正雄は研究を続け、日本の古典文学研究に大きく貢献しました。彼の研究は、現代の研究者たちにとって、今もなお重要な指針となっています。彼の残した膨大な業績は、後世にわたって日本の国文学研究の発展に貢献し続けるでしょう。彼の没後も、『室町ごころ 中世文学資料集』のような記念論文集が刊行されるなど、彼の影響力の大きさが伺えます。岡見正雄は、真に日本の国文学研究の泰斗と言える存在です。

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