岩下家一

岩下家一：日本のホテル業界に貢献した子爵

岩下家一（1879-1963）は、日本のホテル業界に多大な貢献を果たした人物です。子爵の身分を持ち、祖父は明治時代の政治家として活躍した岩下方平という名家出身でした。

家一の父は岩下長十郎で、岩倉使節団に参加した経験を持つ軍人でした。しかし、家一はまだ幼い頃に父を亡くしています。学習院中等科では、のちに著名な作家となる志賀直哉や有島生馬らと同級生でした。高等科には1年で中退した後、1900年、祖父の死去に伴い子爵を襲爵しました。

1905年、東京高等商業学校（現一橋大学）を卒業すると、スイスのローザンヌへ留学。そこでホテル経営を学びました。このスイスでの経験は、のちの彼のホテル経営に大きく影響を与えたと考えられます。作家有島生馬は、スイス滞在中の家一を訪ねた経験を小説『獣人』の中で描いています。

帰国後、家一は長春ヤマトホテルの支配人を務めました。しかし、1913年には経営方針を巡って上層部と対立。経営改善策が拒絶されたことから、辞職を決意し、自ら辞表を提出しました。

この後、家一は日本のホテル業界において重要な役割を果たします。丸ノ内ホテルの設立に参画するなど、日本のホテル業界の近代化に貢献しました。1926年には逗子なぎさホテルを設立。さらに、学習院時代の同窓で遠縁にあたる土屋計左右にホテル業の創業を勧めたことで、第一ホテルの設立にも繋がりました。

政治面においても活動しました。1946年、貴族院子爵議員補欠選挙に当選し、貴族院廃止となる1947年まで議員として活躍しました。

家一の私生活にも目を向けると、彼の妻・きぬは、佐賀伊万里津屈指の陶器商の家に生まれた、教養豊かな女性でした。きぬは、幼少期に有馬小学校に通い、その後私立女子美術学校（現女子美術大学）を経て、ロンドンやパリの美術学校に留学するなど、幅広い経験を持っていました。家一と結婚したのは、きぬがハルピンに滞在していた時でした。

家一は、ボート競技にも造詣が深く、1940年の戸田漕艇場オープン時のデモンストレーションにも参加しています。

岩下家一は、華族出身という恵まれた環境だけでなく、自らも積極的に学び、行動することで、日本のホテル業界に大きな足跡を残した人物でした。その生涯は、近代日本の発展と深く関わり、多方面にわたる活躍が認められます。彼の功績は、今もなお日本のホテル業界に影響を与え続けていると言えるでしょう。

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