岩屋 (神戸市)

岩屋：神戸灘区の地名に刻まれた歴史と文化

神戸市灘区に位置する岩屋は、古くからの歴史を秘めた地名です。現在、岩屋南町、岩屋中町、岩屋北町といった町名がありますが、これはかつての広大な岩屋村の一部にすぎません。かつての岩屋村は、現在の行政区画をはるかに超える広大な地域に及んでおり、その範囲は周辺地域にも及んでいました。令和2年国勢調査では定住人口は確認されていませんが、その歴史と文化は、現在も地域に息づいています。

由来にまつわる諸説：神話と歴史の交錯

岩屋という地名の由来は、諸説あります。その一つは、岩屋中町四丁目にある敏馬神社（みるめじんじゃ）に関連しています。敏馬神社は、延喜式内社として知られ、かつては汶売（みるめ）社と呼ばれていました。地域の人々は、嫁入りの際にこの神社の前を通ることを避け、「縁切り」と解釈した風習があったと伝えられています。

また、中世には岩屋村の一部または全体が「火打町」と呼ばれていた時期もありました。この名称の由来は明確ではありませんが、火打ち石の産地であったという推測も存在します。しかし、これについては確実な記録がなく、他の地域と同様に、地名に「火打」が付くものの火打ち石の産出が確認されていない例の一つとなっています。

別の説として、岩屋という地名は、かつてこの地に存在した「斎屋（いつきや）」に由来するというものがあります。斎屋とは、祭祀を行う場所を指し、御崎の岩場に存在していたと伝えられています。敏馬神社との関連性については不明な点が残されています。

さらに、敏馬神社の森が古墳であったという説や、岩で家を造っていたことから岩屋と呼ばれるようになったという説も存在します。これらの諸説は、岩屋という地名の由来が、複雑な歴史と信仰と関わりを持っていることを示唆しています。

多様な旧字名：歴史の層を織りなす

岩屋には、島田、屋形、浜屋形、濱田、前浜、寺内、当免、坤（ひつじさる）、松本、池尻、中浜、西坂口、庄堺（しょうかい）、水戸、北ノ口、上沢、唐戸前など、多くの旧字名が存在します。これらの旧字名は、それぞれの場所にまつわる歴史や出来事を物語っています。例えば、島田は摩耶山天上寺の御朱印地であったことに由来し、唐戸前は新羅からの来朝者に対する酒の供養に関連していると考えられています。庄堺は、灘区の広範囲を占めていた都賀庄の境界を示す場所であったと伝えられています。これらの旧字名は、岩屋の歴史の深さと多様性を物語る貴重な痕跡と言えます。

岩屋の経済：商工業と地主層

岩屋の歴史を語る上で、経済活動についても触れる必要があります。岩屋には、島田外和（割烹業）、島田文一郎（鉄直輸入商）、安国善次（米商）といった商工業者が存在しました。また、島田文治郎のような水産業に従事する者もいました。さらに、生島五三郎（資産家、兵庫県多額納税者）や安国幸左衛門（神戸市会議員）といった地主・家主層も、岩屋の経済を支える重要な存在でした。これらの経済活動は、岩屋の社会構造や生活様式を形作る上で重要な役割を果たしていたと考えられます。

参考文献

・交詢社編『日本紳士録 第26版』交詢社、1921年
・交詢社編『日本紳士録 第32版』交詢社、1928年
・東邦通信社編『現代日本人名大辞典 昭和5年版 第2版』東邦通信社、1930年
・人事興信所編『人事興信録 第10版 上』人事興信所、1934年
・交詢社編『日本紳士録 第41版』交詢社、1937年
・人事興信所編『人事興信録 第14版 下』人事興信所、1943年
・神戸史学会 編『神戸の町名 改訂版』神戸新聞総合出版センター、2007年
・灘区役所広報相談課 編『灘区の町名』灘区役所広報相談課、1976年

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