岩崎勝

岩崎 勝

岩崎勝（いわさき まさる、1950年3月2日生）は、日本のモーターサイクルスポーツ界において、レーシングライダー、開発者、そしてチーム監督という多岐にわたる役割で顕著な功績を残した人物です。特に、スズキでの画期的な車両開発への貢献、そして引退後にチーム監督として若手ライダーを全日本チャンピオンに育て上げた手腕は高く評価されています。

スズキ時代：開発と挑戦の年月

1970年代、岩崎氏はスズキ株式会社に所属し、オートバイの車両開発部門で重要な役割を果たしました。社内開発チームである「浜松チームタイタン」の創設に尽力し、市販予定のオートバイをテストコースで徹底的に走行させ、その性能向上に貢献しました。当時のスズキは、得意とする2ストロークエンジンの分野で高い実績を誇っていましたが、ホンダやカワサキが牽引する4ストローク市場では後発でした。岩崎氏は、スズキ初の本格的な大型4ストロークモデルとなるGS750の試作・開発において、テストライダーとして中心的な役割を担い、エンジンの特性から車体の挙動に至るまで、開発チームに詳細なフィードバックを提供し、その完成に不可欠な貢献を果たしました。また、その後の高性能モデルであるGSXシリーズや、世界を目指す市販レーシングマシンRGB500の開発にも深く携わり、スズキのロードスポーツモデルの礎を築く一助となりました。

開発者として傍ら、岩崎氏はプロのレーシングライダーとしても活動しました。全日本ロードレース選手権にはスズキのマシンで参戦し、1975年にはジュニア125ccクラスでランキング9位を獲得しました。翌1976年には国内最高峰のエキスパートクラスへ昇格。この年の第2戦筑波からは、当時世界グランプリで投入され始めたばかりのワークスマシン、RG500を託されます。国内レースでは初めての実戦投入となるこの最新鋭マシンを駆り、排気量で勝るライバルを相手に総合2位という衝撃的なデビューを果たし、その卓越したライディングスキルを世に知らしめました。さらに、同年第7戦として開催された鈴鹿200マイルレースでは、このRG500を駆って見事に優勝を飾る快挙を達成します。

しかし、1977年は怪我によりレース活動が困難となる期間を過ごしました。このブランク期間中、岩崎氏は単に静養するのではなく、ヨーロッパへと渡り、当時の世界トップライダーであるバリー・シーンやパット・ヘネンといったレジェンドたちのピットでメカニックを務めるという貴重な経験を積みました。この経験は、メカニックの視点やレース現場の最前線を知る上で、その後のキャリアに大きな糧となったと考えられます。1978年7月には、約二年ぶりにレースシーンへの復帰を果たしました。また、開発ライダーとしての責務も継続しており、1980年には自身が開発に携わった市販レーサーRGB500の性能確認のため、ロードレース世界選手権（現MotoGP）のレースにもスポット参戦しています。さらに、極めてユニークな試みとして、1983年にはRG500のスクエア4エンジンの半分、つまり2気筒を使用したテストマシンで全日本250ccクラスの予選にエントリーするなど、常に技術的な探求心を持ち続けました。

チーム・ブルーフォックス監督として

現役レーサーとしてのキャリアを終えた岩崎氏は、新たな舞台であるチーム運営の世界へと足を踏み入れます。1986年、実業家の入交昭廣氏によって設立されたレーシングチーム、「チーム・ブルーフォックス」の監督に就任しました。ホンダのマシンを主に使用するこのチームで、岩崎氏は全日本ロードレース選手権を戦うライダーたちの育成とチーム全体のマネジメントを担いました。当初は250ccクラスに一ノ瀬憲明、TT-F3クラスに阿部直人を起用して参戦。

岩崎監督の指導の下、チームは急速にその実力を高めていきます。1988年には、宮崎祥司のライディングにより、競争の激しい全日本選手権TT-F1クラスでシリーズチャンピオンを獲得するという輝かしい成果を達成しました。岩崎監督は、若く将来性のあるライダーを見出し、その才能を最大限に引き出すことに卓越した手腕を発揮しました。1992年には、武石伸也をチームに迎え入れ、鈴鹿8時間耐久レースで世界グランプリライダーを抑えてポールポジションを獲得するという圧倒的な速さを見せつけます。そして1993年、当時まだ国際A級ライセンスを取得したばかりという、破格の若さだった阿部典史を、最高峰クラスである500ccに抜擢するという大胆な決断を下しました。この判断が功を奏し、チームはHRC（ホンダ・レーシング）から供給されたNSR500を駆る阿部典史を、見事に全日本選手権500ccクラスのシリーズチャンピオンへと導きました。これは、岩崎監督のライダーを発掘・育成する確かな眼力と、チームを勝利に導くマネジメント能力が結実した瞬間でした。

岩崎勝氏は、スズキでの革新的な車両開発への貢献、レーサーとしての記憶に残る活躍、そしてチーム・ブルーフォックス監督としての数々の全日本タイトル獲得という、日本のモーターサイクルロードレース界の歴史において、多角的な視点から重要な足跡を残した稀有な存在と言えるでしょう。

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