岳人列伝

『岳人列伝』：山岳漫画の金字塔

村上もとか氏による『岳人列伝』は、アルパインクライミングを題材とした感動的な山岳漫画の傑作です。1982年度の講談社漫画賞少年部門を受賞しており、その高い評価は、山岳漫画史における金字塔としての地位を確固たるものとしています。

少年ビッグコミック誌上で、読み切り形式の短編が不定期に連載されました。各エピソードは独立した物語として完結しますが、シェルパ族のアン・プルパやパデトといった魅力的な登場人物が複数の作品に登場し、シリーズ全体に統一感を与えています。

受賞と評価

1982年の講談社漫画賞では、多くのラブコメ作品を抑え、少年漫画部門で受賞するという快挙を達成しました。選考委員の石森章太郎氏は、本作の荒々しさの中にこそ「少年漫画らしさ」を見出したと評しています。この受賞は、本作のリアリティと迫力、そして人間ドラマの深さが高く評価された証と言えるでしょう。

主なエピソード

以下、代表的なエピソードの概要を紹介します。

南西壁: エベレスト南西壁への厳冬期登頂を目指す国際登山隊の物語。イギリス人クライマーとシェルパのアン・プルパが、数々の困難を乗り越え、命懸けの挑戦を繰り広げます。過酷な環境の中、互いを支え合う二人の姿は、読者に深い感動を与えます。

裸足の壁: シェルパ族の少年カンバが、初恋の相手ラーリへの思いを胸に、高さ1000メートルの絶壁に挑む物語。アン・プルパがカンバの師匠として登場し、彼の成長を支えます。カンバの純粋な情熱と、過酷な環境への挑戦は、多くの読者の心を揺さぶります。

北壁: ドイツ人クライマー親子が、プチドリュ針峰の北壁未踏ルートに挑む物語。父親の死をきっかけに、息子が再び北壁に挑む姿は、喪失と再生、そして家族の絆を描いています。

遠い頂: 1930年代、エベレスト登頂に挑んだ英国空軍大尉と恋人の物語。当時の登山技術と、挑戦の困難さをリアルに描写しています。1934年のエベレスト登頂未遂事件を題材としており、歴史的な背景も加味されています。

ザイル: 日本屈指のザイルパーティとして知られたクライマーの親子二代が、グランド・ジョラスに挑む物語。彼らは、山に挑む理由を自問自答しながら、想像を絶する困難に立ち向かいます。

ヒマラヤの虎: シェルパのアン・プルパの若き日を描き、彼の成長と人間性を浮き彫りにしています。

吹雪: 冬山の単独登山に挑戦する浪人生とベテラン女性登山家の物語。雪山における危険性と、命の大切さを改めて考えさせられるエピソードです。

K2: アメリカとドイツの合同登山隊がK2北西稜未踏ルートに挑む物語。極限状況下での人間の業を描写しています。

様々な版

『岳人列伝』は、マンガくんコミックス、少年ビッグコミックス、小学館叢書、文春文庫、アイランドコミックス、ガンボコミックス、小学館文庫、My First Big SPECIALなど、様々なレーベルから単行本が出版されています。それぞれの版で、表紙デザインや収録内容が異なり、コレクターにも人気の高い作品です。

まとめ

『岳人列伝』は、壮大な自然と人間のドラマが融合した、まさに山岳漫画の最高傑作と言えるでしょう。それぞれのエピソードが独立した物語として成立しつつ、全体を通して一貫したテーマが感じられる、奥深い作品です。クライミング経験の有無に関わらず、多くの人々に感動と勇気を与える作品として、長く読み継がれることでしょう。

もう一度検索