岸上克己

岸上 克己（きしがみ かつみ）

岸上克己は、日本の明治時代から昭和中期にかけて活躍したジャーナリストであり、労働運動家でもあります。彼は1873年11月26日に栃木県河内郡宇都宮町（現在の宇都宮市）に生まれ、本名は岸上克己で、筆名に香摘（こうてき）を使用しました。彼の活動は、労働者の待遇改善に向けた運動に深く関わり、その後のジャーナリズムへとつながっていきました。

来歴

克己は、宇都宮藩士族の末裔として裕福な家庭に生まれました。特に小学校時代には成績優秀でありましたが、教師からの吃音に関するからかいが影響し、不登校になるという苦い経験をしました。この影響から、親戚を頼り、埼玉県北足立郡浦和町（現在のさいたま市浦和区）に移り住むことになりました。

彼はそこで印刷工を営む従兄と過ごし、同時に高木旭山からの誘いを受けて、過酷な労働環境で働く工員たちの待遇改善に乗り出します。労働運動に目覚めた彼は、活版工懇話会の設立に参加し、機関紙の編集委員を務めました。この活動がきっかけで、当時の著名な運動家たちと知り合うことになり、特に片山潜や幸徳秋水と関わりを持ちました。彼の文才を見いだした秋水の助けもあり、1903年（明治36年）に島田三郎が経営する毎日新聞に入社し、ジャーナリストとしての第一歩を踏み出しました。

その後、彼は浦和を拠点に埼玉毎日新聞、埼玉日日新聞、八州新聞の各紙で論説委員・主筆をとして活動しました。1925年（大正14年）には浦和町の町会議員に当選し、次の年には役場の名誉助役となります。このように、岸上克己は地域の政治にも関与し、戦後には浦和市選挙管理委員会の委員を歴任しました。

死去

彼の人生は、1962年6月21日に浦和市岸町の自宅で幕を閉じました。享年90歳、満88歳での逝去でした。

家族

岸上の家族は彼の活動にも色濃く影響を与えています。兄の岸上操（質軒）は漢学者として知られ、次男の岸上菊雄も浦和市役所の職員として勤める一方で、作詞家としても活動していました。彼の作品には「自動車部隊の歌」や「埼玉県歌」、「さくら草音頭」などがありました。

著書

岸上克己は多くの著作を残しており、主な作品には以下があります。

• - 『埼玉壱百人』（1917年、埼玉通信社）
• - 『加藤政之助翁略伝』（1937年、私家版）
• - 『香摘文抄』（1940年、岸上後援会）
• - 『武蔵会館四十五年記』（1955年、武蔵会館処理委員）

さらに、埼玉に関する歴史や人物を紹介する『埼玉人物評論』も彼の活動の一環として評価されています。彼の業績は、近代日本の労働運動やジャーナリズムの発展に寄与しました。

岸上克己は、その活動を通じて、地域社会に対する意識を高め、後の世代に脈々と受け継がれるべき思想を残した人物です。

もう一度検索