幸徳秋水

幸徳秋水：激動の時代を生きたジャーナリストと革命家

幸徳秋水（こうとく しゅうすい、1871年-1911年）は、明治時代の日本を代表するジャーナリスト、思想家であり、社会主義者、共産主義者、そして無政府主義者として知られています。本名は幸徳伝次郎。師である中江兆民から「秋水」の号を与えられました。1910年の大逆事件で死刑判決を受け、処刑された12人の一人でもあります。

中江兆民の門弟からゴシップ記者へ

高知県に生まれた秋水は、裕福な家庭で育ちました。幼少期から儒学を学び、その後上京。1888年、同郷の中江兆民の家に住み込み、その門弟となります。ここで「秋水」の号を授かりました。

新聞記者を目指した秋水は、自由新聞を経て、1892年には黒岩涙香が創刊した『萬朝報』に入社しました。『萬朝報』はゴシップ報道の先駆けとして、権力者のスキャンダルを次々と暴露することで知られていました。秋水は『萬朝報』で活躍し、発行部数を伸ばすことに貢献します。

この間、国民英学会で学び、政治にも関与。憲政党の解党や、日清戦争後の馬蹄銀事件など、数々の時事問題について鋭い批判を展開しました。馬蹄銀事件の追及は、陸軍中将を休職に追い込むほどのインパクトを与えましたが、同時に権力者からの恨みを買うことにも繋がったとされています。1899年には師岡千代子と結婚。

社会主義運動と無政府主義への傾倒

1901年、秋水は社会民主党の結成に参加しますが、すぐに禁止令が出されます。その後、社会平民党の結成にも関与するも、これも禁止されます。彼はこの頃から社会主義運動に深く関わっていくことになります。

日露戦争が始まると、秋水は戦争に反対する立場をとります。『萬朝報』が戦争支持に転向したため、秋水は同僚らと共に退職。その後、「平民社」を設立し、『平民新聞』を発行して、反戦論や社会主義思想を訴え続けました。

1904年には、堺利彦と共に『共産党宣言』を翻訳・出版しますが、すぐに発禁処分を受けます。獄中でピョートル・クロポトキンらの著作に触れた秋水は、無政府主義（アナキスト）へと傾倒していきます。

出獄後、アメリカに渡り、ロシア人アナキストらと交流を深め、帰国後は、直接行動による社会革命を主張しました。この主張は、合法主義を掲げる日本社会党との対立を生み、やがて社会革命党を結成します。

大逆事件と処刑

1909年には雑誌『自由思想』を発刊しますが、発禁処分となります。また、私生活では、妻千代子と離婚し、荒畑寒村の妻・管野スガと不倫関係となります。

1910年、大逆事件に巻き込まれ逮捕。獄中で「基督抹殺論」を執筆します。1911年、大逆罪で死刑判決を受け、39歳で処刑されました。スガも翌日に処刑されています。

大逆事件は、国家権力によるでっち上げであるとする見方が有力です。秋水の処刑は、国内外で大きな批判を呼びました。

死後の影響と再評価

秋水の死後、彼の思想は様々な影響を与え続けました。南北朝正閏論への影響や、天皇機関説・天皇主権説への関与など、彼の活動は日本の歴史に大きな足跡を残しました。

近年、新たな資料の発見や研究が進み、大逆事件における国家権力の関与や、秋水の思想の再評価が進められています。帝国主義批判の先駆者としての業績も高く評価されています。

幸徳秋水は、激動の時代を生きた革命家であり、思想家でした。彼の生涯は、自由と社会正義を求める人々にとって、常に記憶されるべきものです。彼の著作は、現代においても読み継がれ、新たな視点を与え続けています。また、彼の生涯は、数々の書籍や論文、さらには劇画などでも取り上げられ、様々な形で再解釈されています。

もう一度検索