崇禎紀元

崇禎紀元とは、李氏朝鮮において用いられた紀年法の一つで、明の最後の元号である崇禎を基準とするものです。具体的には、崇禎元年（1628年）を起点とし、「崇禎紀元後（숭정기원후）何年」または「崇禎後（숭정후）何年」という形で年数を数えました。また、年数だけでなく、干支と回数を組み合わせて表現することもありました。

李氏朝鮮は、建国以来、明から冊封を受けており、その関係から明の元号を使用していました。しかし、1637年に清の侵攻を受け、降伏（三田渡の盟約）を余儀なくされます。これにより、明に代わって清から冊封を受けることとなり、公式には明の元号を使用することができなくなりました。さらに、1644年には明自体が滅亡し、清が中国を支配するようになりました。

しかし、李氏朝鮮では、尊明排清の意識が強く、清を野蛮な異民族と見なす風潮がありました。そして、明が滅亡した後も、朝鮮こそが中華の正統な伝統を受け継いでいるという小中華思想を持つようになります。このような背景から、公式には清の元号を使用せざるを得ない状況下でも、内部では明の元号を使用し続けるという動きが起こり、その象徴として崇禎紀元という独自の紀年法が生み出されました。これは、李氏朝鮮の人々が清の支配下においても、明への忠誠心を忘れず、自らを中華文化の継承者であると認識していたことを示しています。

以下に、崇禎紀元の具体的な例を挙げます。

崇禎紀元後八十三年＝1710年
崇禎甲申後六十五年＝1710年（崇禎17年後の65年）
崇禎後再癸丑＝1733年（2回目の癸丑の年）
崇禎後百三十八年＝1765年
* 崇禎紀元後四乙丑＝1865年（4回目の乙丑の年）

これらの例からわかるように、崇禎紀元は、単に年数を数えるだけでなく、干支や回数を組み合わせることで、より複雑な年月の表現を可能にしていました。この紀年法は、李氏朝鮮の人々が明への忠誠心を保ちながら、独自の歴史観を維持しようとした証と言えるでしょう。

崇禎紀元は、単なる紀年法にとどまらず、李氏朝鮮の政治的、文化的な独自性を示す重要な要素であり、当時の人々の意識や価値観を理解するための鍵となります。

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