崇貞学園

崇貞学園（すうていがくえん）

崇貞学園は、1921年から1945年にかけて、中華民国（当時）の北京市朝陽区に存在した私学校およびその運営組織です。日本の教育家であった清水安三によって設立されました。この学園は、特に教育の機会に恵まれなかった女性たちに、人間としての尊厳と自立のための力を与えることを目的としていました。

設立の背景と理念

清水安三は、牧師として活動する中で、唐代に中国から日本へ仏教を伝えた鑑真の精神に深く感銘を受けました。彼は鑑真に倣い、中国への教育による貢献を決意します。1920年代に入ると、当時の北京、特に朝陽門外一帯は貧困層が集まるスラムと化しており、多くの女性たちが経済的な理由や社会的な立場から十分な教育を受けられない状況にありました。清水はこうした女性たちに着目し、無償で生活に役立つ技能、例えば刺繍などを教える学校を設立。これが崇貞学園の始まりです。

学園の教育は、単なる識字や裁縫にとどまらず、時代の変化を見据えたものでした。特に注目されるのは、日本の統治下にあった朝鮮半島の女性たちを、北京の学校としては極めて珍しく積極的に受け入れた点です。さらに、日本の「創氏改名」政策によって日本名を名乗らざるを得なくなった朝鮮人女性に対しても、学園内では彼女たちの本来の朝鮮名で呼び続けました。これは、一人ひとりの出自や文化を尊重する、清水の強い意志の表れでした。また、学園では将来的な朝鮮の独立や女性の社会進出を視野に入れた教育が行われ、女性が社会で自立して生きていくための力を育むことに重点が置かれました。

時代との軋轢と学園の終焉

崇貞学園の教育方針は、当時の日本が推し進めていた皇民化教育とは一線を画していました。個人の尊重や民族の自立を促すような教育は、日本の当局から危険視されることもありました。清水自身、その教育活動を理由に一度憲兵に拘束されるという経験もしています。しかし、幸いにも後に釈放され、学園での教育は続けられました。

しかし、学園の歴史は1945年、第二次世界大戦の日本の敗戦によって幕を閉じます。日本は中国の占領地を返還することになり、清水を含む多くの在留日本人は中国からの引揚げを余儀なくされました。これにより、清水はやむなく崇貞学園を手放し、日本へと帰国しました。

日本での継承と戦後の変遷

日本に帰国後、清水安三は崇貞学園で培った教育理念を日本でも実現するため、東京都町田市に桜美林学園を創設しました。崇貞学園の精神は、この桜美林学園へと引き継がれることになります。

一方、北京に残された崇貞学園の施設は、日本の敗戦後、北京市教育局の管轄となりました。学園はその名称を「北京市女子第四中学（北京女四中）」と改め、再出発を切ります。1954年には重点中学に指定され、地域の教育における重要な役割を担うようになります。さらに、1976年には名称が「朝陽中学」へと変更されました。

現在の北京市陳経綸中学へ

その後の1991年、香港の実業家である陳経綸（Chen Jing Lun）氏からの多額の投資（2千万元）を受けて旧校舎の大規模な改築が行われ、学校は「北京市陳経綸中学」と名称を改めました。現代的な教育施設を備えた同校は、教育内容も充実させ、2003年には9年間の一貫教育を行う分校も設立。現在では朝陽区内で唯一、小学校から高等学校までの12年間一貫教育を提供する学校となっています。

北京市陳経綸中学は、中国女子バレーボール界のスターである郎平氏の出身校としても知られています。また、地域住民にも開放されている室内プールを備えていることでも有名です。崇貞学園から始まった教育の系譜は、形を変えながらも、北京の地で今日まで続いています。

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