嵐 (オペラ)

フランク・マルタン作曲 オペラ『嵐』(Der Sturm)

フランク・マルタン（Frank Martin, 1890-1974）によるオペラ『嵐』（ドイツ語: Der Sturm）は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『テンペスト』を原作とする作品です。20世紀のスイスを代表する作曲家であるマルタンが、シェイクスピア文学に挑んだ意欲的なオペラとして知られています。

作品の特徴

原作である『テンペスト』は、追放されたミラノ公プロスペローが孤島で魔法を操り、復讐を経て和解に至る幻想的な物語です。マルタンは、この原作の筋書きをほぼ忠実にオペラへと翻案しました。物語のドラマティックな展開や、登場人物たちの心理描写、そして島の神秘的な雰囲気が、マルタン独自の音楽によって表現されています。

ただし、オペラとして上演する上での時間的・技術的な制約から、原作の一部にはカットが施されました。これは、長大な戯曲をオペラという形式に凝縮し、その劇的な効果を最大限に引き出すための判断であったと言えます。

マルタンの音楽は、シェイクスピア劇の持つ深みや幻想性を表現するために、伝統にとらわれない独自の響きを持っています。キャラクターの感情や、魔法に満ちた島の雰囲気を巧みに描き出すその音楽は、聴衆に強い印象を与えます。

初演とその成功

本作は1956年、オーストリアのウィーンにある格式高いウィーン国立歌劇場（Wiener Staatsoper）にて世界初演されました。この初演は、オペラ史においても特筆すべき出来事として語り継がれています。

特に、初演当夜の観客の熱狂ぶりは伝説的です。上演後、鳴り止まない拍手と喝采に応え、なんと23回ものカーテンコール（アンコール）が行われたと記録されています。これはオペラ史上でも極めて異例な回数であり、作品が当時の聴衆にいかに強い感動を与えたかを示しています。この記録的な大成功は、フランク・マルタンの作曲家としての評価を揺るぎないものとし、オペラ『嵐』を彼の代表作の一つとして確固たる地位に押し上げました。

その後の評価

ウィーンでの歴史的な初演以降、『嵐』は国際的に上演され、その芸術性の高さが広く認められています。シェイクスピアの普遍的なテーマと、フランク・マルタンの独創的な音楽が見事に融合した本作は、文学作品のオペラ化の成功例として、また20世紀オペラの重要なレパートリーとして、今日でも評価されています。初演時の熱狂的な歓迎は、その後の作品の受容にも大きな影響を与え続けています。

オペラ『嵐』は、フランク・マルタンがシェイクスピア劇に音楽で挑み、ウィーンでの伝説的な初演で圧倒的な成功を収めた記念碑的作品と言えるでしょう。

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